第6話
波路はしずかに、それでいてはっきりと、烝の目を見据えて伝えました。
『ややこができたみたい』
一瞬、何を言われたのか。烝はさっぱり理解できません。
『あんたのややこができたみたい』
波路は、明確に烝の子だと告げました。
しかし、頻度は格段に減ったとはいえ、未だに波路は他の古株書生二人とも交わっています。手放しで自分の子だと喜び、認める訳にはいきません。
また、根拠もなく烝の子だと当然のように決めてかかる波路に、無意識に怖れも抱いてしまったのです。
くどいようですけれど、もう少し、もう少しだけ時間が経っていれば。波路への愛情がもう少し、もう少しだけ深まっていたなら、烝は認めたかもしれません。
時の流れは長くとも短くとも残酷な結果を呼ぶのです。
認める。認めない。激しい口論は延々と続きます。
平行線のままの口論に苛立った波路は、狂ったように烝に掴みかかります。
波路の勢いに気圧され、あらん限りの罵詈雑言を浴びせられている内に、烝も徐々に冷静さを失っていき──、そして、悲劇が起きました。
カッとなった弾みで、烝は波路の頭を金魚鉢の中へ力ずくで押し込んでいたのです。
我に返った時にはすでに遅く。
美しい顔を醜く歪めた波路は息を引き取っていました。
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