第28話 ダンジョン探索をしよう! ⑥
まるでピクニックにでも出掛けているような軽い足取り、なんならルンルンと鼻唄すら聞こえてきそうだ。
そんな彼女、アリッサは後衛にいるリリティとハンニバルに近寄っていった。
「それで、ギルド長、ハンニバルさん。ずばり、今回の事件について、どうお考えなのでしうょうか?」
本当に、素直に聞きに行った。
うわぁ、2人とも嫌そうな顔だ。 まだ真相(?)を開示したくないってことだろうか?
それでも渋々ながら、リリティが口を開いた。
「最近、ここ北のダンジョンで不審者の目撃情報が出ている」
「不審者? ダンジョン?」
おっと、後ろから盗み聞きするつもり満々だったのに、うっかりと声が出てしまった。
仕方がないので、話に混じろう。
「なんだそりゃ? 亜人系モンスターじゃない、本当に人間なのか?」
「さて、私にもわからないわ。上級冒険者からの情報だから確かよ。 ここの35層に1人だけで徘徊している人物がいるってね」
「なるほど、それは確かに不審者だ」と俺は笑った。
上位冒険者たちが苦戦する場所である35層。そこに1人だけ徘徊している時点で紛れもなく不審者だろう。
「それで? 遭難事件のタイミング。文字通りの怪人の正体を確かめるためにギルド長が最高戦力を引き連れて調査に出向く。それはわかったが、そちらの御仁は?」
俺はハンニバルと指した。 普段、饒舌とも言える彼が「……」と無言なのは不機嫌なのか、それとも、何を強く警戒しているからだろうか?
やがてポツポツと話を始めた。
「前に話したと思うが、魔族側にも『スキル』の研究をしている者がいる。俺は、その魔族が不審者の正体だと思っている」
そんな話があったな。俺も思い出したが、
「その根拠は?」と聞いた。 根拠にしては、すいぶんと薄いと思ったからだ。
「不審者と遭遇した冒険者の証言では、スキルを使用した時に強い反応を示したそうだ」
「強い反応? たとえば、どんな?」
「猛ダッシュで接近してきて、スキルについて根掘り葉掘り聞いてきた」
「怖っ! 新手の妖怪の部類かな?」
そりゃ、こんな薄暗いダンジョンで走ってくる人影自体、怖いだろうよ。
「さらに、その不審者は冒険者たちの事を『お前たち愚かな人間共は』と呼んでいたそうだ」
「どんな二人称の使い方してるんだよ!」
そりゃ間違いない。完全に魔族だわ、魔族以外にあり得ないわ。
むしろ、何で今まで放置していた? なんて疑問が出るくらいに不審者の魔族だわ。
「つまり、お前のように『スキル』の実験をダンジョンで行っている魔族がいる。今回は、遭難者の救助と同時に、その魔族の調査。 場合によっては排除まで視野にいれないとダメってことだな」
「……そうだな。その通りだ」と、なぜかハンニバルは言い淀んだ。
「ん? なんだ、まだ隠している事があるのか?」
「奴が行っている『スキル』の研究。それはダンジョンを使った大がかりなものだ」
ダンジョンにスキルを使った? あまりにも聞き捨てならない言葉だが……
彼は、そのまま敬意を評するするように、続けた。
「俺とはアプローチが違いすぎる。そのスケール感の大きな発想には、正直言うと嫉妬心を隠せぬよ」
ハンニバルとは違うアプローチ方法?
そう言えば、このダンジョンって……少し変、だったよな?
「気づいたようだな。『スキル』と言う特殊な力は、何も人間にだけが使える物ではない」
「まさか、おい! ちょっと待てよ」
俺はあることにを連想した。 それは最悪のイメージだ。
「待たないさ。武器や防具に『スキル』を付与した実例は幾らでもある。アイツはその専門家と言ってもいい。そんな奴の次のテーマは…… ダンジョンに『スキル』を使用させる事だ」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
いろいろあった。
日にちの感覚が乱れてきたが、ダンジョンに入って2~3日は経過したくらいだろう。
俺たちは、ついに34層のボスと対峙した。
『34層ボス オーバーアイランド・ドラゴンソルジャー』
その名前の通り、ドラゴンを模した黒い鎧を身に纏い、長い槍を俺たちに向けている。
「気を付けて」とリリティ。 彼女はギルド長として、冒険者たちがダンジョンに挑んだ時の記録。報告書を見る権限がある。
つまり、このボスであるオーバーアイランド……長いな。 ここは直訳して上島にしておこう。
リリティは上島について弱点などの情報を知っている。
「あれは古代の英雄を模写しているドッペルゲンガーに過ぎないわ」
ドッペルゲンガー 変身能力を有するモンスターだ。
冒険者の姿に成り代わり、同じ冒険者を襲う怪物。 それは見た目をコピーするだけではなく、身体能力や記憶も本物から手にいれる事ができるそうだ。
「とは言え、所詮はにせ者だよ。力も本物に遠く及ばない。けど……」
「けど? なんだ?」と嫌な予感がしたが聞き返してみた。
「英雄の技を再現してくるから、普通に強いよ」
早く言え! ほら、前衛のサトルくんが串刺し状態だよ!
違った。ギリギリで避けてる(まぁ、刺さっていても超回復能力があるので死ぬことはないので心配はしてない)。
攻撃を避けて、ワキの下で腕を絡めるようにして槍を止めてる。
「いや、俺が槍を掴んでいる間は攻撃に集中してくださいよ!」
彼の魂の叫びに「よし、きた!」と俺は前衛に飛び出した。
だが、俺の攻撃は止められた。
「うわぁ!」とサトルの声。 槍を押さえ込んでいたサトルの体が浮き上がっている。
おそろべきは、上島ドラゴンソルジャーの
「おっと!」とサトルが怪我をしないように受け止めた。怪我をしても、瞬時に治るのだろうけど、無痛なわけではないだろうからな。
さて、俺は改めて、上島ドラゴンソルジャーを睨み付けた。
「この、怪物め。本物より、力がないって? 堪能させてもらうぜ英雄の実力をな!」
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