第29話 ダンジョン探索をしよう! ⑦

 昔、ある所に槍を使う中国拳法の達人がいました。


 『神槍』の異名を持つ彼は、槍の技についてこのような言葉を残している。


「槍は基本だけでいい。大げさな技なんて不要(意訳)」 


 そこ言葉を聞いた俺は合点がいった。 なるほど、槍は速く突けば、それだけで必殺技になるのだ……と。


 今、その槍が俺に向けられている。


 ・・・


 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


 上島の槍はゆっくりと、矛先を下に下げていく。


 明らかに俺の足を狙っている。 次の瞬間、地を這うような軌道で突きが迫ってきていた。


「ぬっ!」と足を下げて避ける。 だが、槍の軌道が変化した。


 下から上に、俺の顔の向かって槍先が跳ね上がっていく。


 上半身を反らして、やり過ごす事に成功。 


 俺の目前ギリギリに槍の穂先が通過して行った。


 だが、上島ドラゴンソルジャーの動きは1つの流れだった。


 「おいおい、冗談だろ……上段だけによ!」  


 上島の構え。 槍を跳ね上げた事で、剣術でいう上段の構えになっていた。


「上島の上段の構えは、まるで冗談のようで……いやいや、言ってる場合じゃないか」


 槍の長さ、どれくらいだろうか?


 戦国時代、槍兵による密着陣形『槍衾やりぶすま


 最強とまで言われた『槍衾』に織田信長は長さを加え6メートルを槍を使わせたと言うが……


 個人戦闘で使用する槍の長さは3メートルくらいになる。


 そんな文字通りの長槍が、全力で振り落とされて来た。


 回避は間に合わない。剣で防御。


「ぐっ!」と衝撃に息が漏れる。


 再び、槍が上方に向かい、上段の構えになる。


「だが、次は食らってやらんよ!」


 振り落とされた槍を回避する。 地面に接触した穂先は、爆発でもしたかのように地面を抉っていた。

 

「あれを防御して、無事だったのかよ。俺の体!」


 頑丈に産んでくれて、ありがとうご両親! そんな事を考えていると上島ドラゴンソルジャーは一歩、大きく踏み込む。


 前に出た分、間合いが縮む。 またしても、槍を跳ね上げて俺の顔を狙ってくる。


 やはり、避けても上段からの振り落とし。 まるで示現流、あるいは薬丸自顕流の蜻蛉みたいだ。 男の子がみんな大好きな剣術のやつね!


 加えて、技に繋ぎ目がない。突き、跳ね上げ、振り落とし……このすべての動きが1つの技なのだろう。


「……なんで、お前たちは見学してるんだ。見世物じゃないぞ!」


 俺が戦ってる横、アリッサ、サトル、受付嬢さん、リリティ、ハンニバル……5人は地面にゴザを敷いて食事しながら休憩している。


 こっちが真剣勝負をしている最中で……


「はっ! 真剣勝負?」とリリティに呆れられた。


「ユウキ、今の君は勝負を楽しんでいるだろ? 私たちから見たら、本気で戦ってるように見えないよ」


「いや、そんな事は……あるかもしれない」


 なるほど、俺は遊んでいるのかもしれない。 少なくとも、リリティたちから見たら、上島ドラゴンソルジャーは俺が苦戦する相手じゃない……と。


「やれやれ、高く評価されたもんだぜ。 けど、目が覚めたぜ……お前、本物の英雄じゃないもんな」


 あらてめて、俺は上島ドラゴンソルジャーに宣言する。

 

「悪いけど、ここからは決闘気分は終わらせてもらう。モンスター退治に切り替えるぜ!」


 俺は地面を蹴る。


 ダンジョン、それもボス部屋は石畳み。 それを砕くための蹴り。


「――――」と上島は怯む。


 本物の装備に英雄の肉体ならば、歯牙にもかけない攻撃だろうが、こいつは本物の英雄ではない。


 この程度でも、ダメージを受ける。たじろいでる隙に大きく踏み込み、間合いを詰めた。


 上島ドラゴンソルジャーの穂先が煌めいた。


 正面から見れば、点のように小さい穂先。


 それに持ち手が突くという動作をすれば、技のという物がわからなくなる。


 要するにノーモーションの攻撃だ。


 だが、俺は『肉体強化』の魔法を使用。 強化された俺の動体視力は、僅かな変化も見逃すことはない。


 次の瞬間には、高速の穂先が飛んでくる。


「だが、見えるぞ!」 


 向かってくる穂先を剣で軌道を反らして、さらに前に――――


 槍の間合いの内側。 


 槍の特徴であるリーチの長さ。 逆に言えば、強烈な突きを放つためには剣よりも長い距離が必要なのだ。


(懐に入り込んだ。 槍の攻撃は来ない!)


 俺はそう思い込んでいた。  だが、それはすぐに間違いだったという事がわかった。


 野太い風切り音。 槍を振り回す音だ。


 槍の反対側――――柄に遠心力が加えられて俺に向かって来る。


 槍を持つ部分である柄。 それによる打撃。


 木刀でも人は殺せる。 槍の柄でも殴れば人は殺せる。


 「――――ッ!」と痛みが襲われる。 


 腕で受ければ、腕の骨は折れる。 


 だが、俺は腕で防御――――『肉体強化』で盾のような硬さに変化させる。


 上島ドラゴンソルジャーの攻撃を抑え込み、俺は片手に持った剣を前に突き出した。


 刺突。


 俺の剣は胸に突き刺さって行った。 


 だが、ドッペルゲンガーの体だからか?  その手ごたえは薄く、本当に倒せたのか不安になったが――――


 その体は霧散して消えていった。


「ふぅ!」と緊張感を吐き出すように息を吐いた。


「おぉ! 見事、見事」と呑気な声がリリティたちから聞こえてきた。


 パチパチと拍手まで聞こえてきた。


「お前等なぁ、ピクニックかよ。拍手までして……あれ? 誰もしていない?」


 じゃ、この音は、どこから? 音の出所を探るため、耳を澄ましてみれば――――


「下の階層からか?」


 下に続く階段。 そこからひょっこりと何者かが、顔を出した。


 何者か――――いや、明らかに魔族だろう。


 なんせ、頭部に2本、大きなツノが生えている。


   


 

  

 

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