第26話 ダンジョン探索をしよう! ④
奴らは徒党を組んでいる。
薄暗いダンジョンの中でありながら、その集団は鮮やかな緑色の軌道を描いていた。
まるで洞窟を自由に飛び回るコウモリの如く、障害物を避け、
獲物に襲いかかっていく姿はハヤブサの如く。
ドラゴンによく似た形状。 大きく違う特徴は二本足であり、ドラゴンのようにバカげたサイズと魔力を有していないところか?
とどのつまり強敵である。
「気を付けろ。誰かに飼われているかもしれない」
俺の経験上、ワイバーンに騎乗しようとするバカを沢山見てきた。
元仲間のケンシとかもそうだった。 その経験から言おう。
「バカが乗っているワイバーンは最強だ」
短時間の考察。 僅かな情報共有。そして――――接敵。
嫌な予感が当たった。
ワイバーンに鞍をつけて騎乗している者。それもまたモンスタ――――
犬の顔を持つ獣人。 すなわちコボルトである。
刹那の交差。
俺は地を転がるようにして回避に成功した。
通りすぎていったワイバーンから、ドサッと何かが落下した音がする。
振り返るまでもない。 交差の瞬間に投擲した俺の剣が騎乗主であるコバルトに突き刺さったのだ。
だが、それで終わりではない。
騎乗主を失い、怒り狂ったワイバーンが鋭い視線と牙を向けてくる。
ワイバーンの攻撃はシンプルだ。爪か牙の二択。
「もしかしたら、魔法を使えるワイバーンがいるかもしれないが、あいにく出会った事はないな」
襲いかかってくるワイバーンの牙。 だが、それは俺には届かなかった。
避けると同時に飛び付く。 小脇に荷物を抱えるように、俺は腕をワイバーンの首に巻き付け、胴体をロックするように両足を絡ませる。
言うならば、フロントネックロック――――ギロチンだ。
「まさか、ワイバーン相手に絞め技を敢行することになるとは思わなかったぜ!」
首を押さえられると、力を発揮できなくなる動物は多い。
幸いにして、モンスターであるワイバーンも、同じ構造の体をしているらしい。
ヨロヨロと飛行能力を失い着地。そのまま動かなくなった。
「すげぇ、ワイバーンを絞め殺した人類、初めて見た」と離れた位置からサトルの声がした。
「他のワイバーンは?」と俺は状況を確認しながら戦っていたが、念のため確認した。
まぁ、前衛であるサトルが暇をしているなら、わかりきった事ではあるが……
「あれ、見てください。うちの姉が暴れています」
サトルが言うように受付嬢さんが活躍していた。 六面八臂の活躍で暴れに暴れていた。
コボルトもワイバーンも関係なしに、地面に押さえ込んで何発も
「日々の残業、冒険者からのセクハラ、何より上司からの無理難題! あなたたちは私のストレス解消に役立ってくださいよね!」
ドゴッ、ドゴッと離れた所まで、武骨な打撃音が聞こえる。 正直、怖いのですが……
「あぁ、言っておられますが、上司の方はどのようなお考えなのでしょうか?」
リリティに話しを振ってみた。
「うむ、この件が片付いたら、有給を取らせてあげよう」
「……いや、日々の業務改善が急務だと」
さて、本題に入ろう。
「それで、受付嬢さんって何者なのですか? 察するに、ギルドの隠し戦力でしょうかね?」
冒険者昇格試験の時、そう言う話が出ていた。
秘密の特別任務を受ける者――――あの時は、正体は俺って事になったが、本当に存在していたのではないか? そして、それこそが受付嬢さんなのでは?
俺は、言外に聞いてみた。
「例えば悪がいるとする。あんたが、そのワルで地方都市ゲルベルクを落とすにはどうする?」
「どうするって……そりゃ、戦力の減退化を狙うかな? 兵士といった軍隊、もちろん冒険者たちも機能しないように立ちまわったり?」
「そうだね。冒険者ギルドは、そういうワルに対しての対策も必要なのさ」
「もちろん」と彼女は続けた。
「そこまでの緊急事態じゃなくても、冒険者たちの暴走……ボイコットだってあり得る。そういう時でも、円滑に動ける準備ってのはしてるのさ。私たちだって必要最低限は……ね?」
「それが、彼女だという事か?」
「言ってないよね、そこまでは」とリリティは笑った。
ふむ…… なるほど、なるほど。 それはわかったけど、
『どうして、受付嬢さんがあそこまで強いのか?』
もう少し、具体的な理由も聞きたいのだが……
とりあえず、受付嬢さんの(ほぼ)1人の活躍で、ワイバーンの群れを壊滅させることができた。
先に進もうとしたのが――――
「少し待って欲しい。調べたい事がある」とハンニバル。
彼はワイバーンとコボルトの死体に近寄って行った。
死んだモンスターの体は、その場に残らない。すぐに消滅する。
しかし、その消滅するまでの僅かな時間で、何かを調べ始めた。
時間には限りがある。 今は、遭難者救助の途中なのだ。
だが、それを一番理解しているはずのリリティが「……」と不問としている。
彼女を補佐する受付嬢さんもそれは同じだった。
(何かあるのか? ただの遭難ではなくて――――これは『スキル』について事件なのか?)
俺は、自然とハンニバルに視線が吸い寄せられていった。
まるで無意識に俺の危機管理能力が、彼を監視するように促しているような気がしてならなかった。
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