バザーの食事
走る下野を追いかけて賑わっているバザーに向かった。ベンチや出店の近くで食事をとっている人々で埋め尽くされている。
食べているのは黄緑色をしたグレープフルーツくらいの大きさをした木の実、白い生地に何かの肉を挟んだようなもの。誰もが同じものを食べている。
「なあ、ここの食事って配給みたいな感じなのか?」
「そんなところだな。銀を一枚出したらパーラって木の実一つとシシルクって簡単に言えばケバブっぽいものがもらえる。倍出せばパーラとシシルク2個ずつってな感じだ。残ってればの話だけどな」
「毎日同じ食事なのか?」
「少なくとも俺が町に滞在している間はあれだったぜ。飽きはするが食えるだけありがたいと思わねぇとな。基本食事はこの一食だけだからよ」
「……は?まじで言ってる?」
「ああ、言ったろ?こんな砂漠じゃ食料も水も貴重なんだって。行商人が来るのに時間かかるし、持ってくる量も多くないんだぜ。金額も遠くの国の生産数に左右されるしな」
下野と話していると、居候している家の男がこちらに食事を持って歩いてきた。どうやらワンセットのみらしい。
まだ聞いたことのない単語は理解できなかったが、きっとこれで我慢しろとでも言ったのだろう。
半分に切り分けられたパーラとシシルクを貰う。
パーラという木の実を食べてみる。水分が多く、味はなんと言えば良いものか困る。苦いような、酸っぱいようなぼやけた味がする。食べられはするが、進んで食べたいものではない。
口直しにシシルクにかぶりつく。こちらは強い塩味で、肉は血生臭い。昔、ジビエを食べる機会があったのだが、血抜きを失敗していてひどく臭かった。
あの時の物に比べれば臭いはマシだが、慣れていないときついだろう。生地は粉っぽく、味はしない。しかし、味がないおかげで塩っ辛さが軽減されて食べやすくなっている。総じて、決して美味しいとは言えないが食えなくはないといった印象だ。単に自分の舌に合っていないだけか、いつも食べているものが美味すぎるだけだろうか。
あまり味わうことをしないで、ただ腹の中に収めた。のどの渇きは潤ったし、腹も膨れたが、なんとも満たされない感覚が残る。
「うし、食い終わったな。さて榎原、どうやって路銀稼ごうか?」
「どうやってと言われてもな。水汲みくらいしかないんじゃないか?ここから水場までどのくらいあるか知らないが、オアシスとかから仕入れているんだろ?大規模な工事をして川を作るなんてことはしてないように見える。地下水の可能性も考えたけど、技術的に地下水の埋蔵されている地点まで掘り進められないように感じるのだが?」
「よくお分かりで……。実際、俺もここに来てからあの家に居候する条件で水汲みさせられてるからな。水汲みの見返りに寝床と食事を貰っているわけだ」
「水場からこの町までどのくらい距離があるんだ?」
「はっきりとはわからないが、1往復したら日が暮れるくらいには距離あるぜ」
それだけ距離があるとなると何かしら道具を利用して運搬できる量を増やさなければ金を稼ぐことはできそうにない。
家には必ずかめが置いてあるのを見るに、あれに水を汲んでいるのだろう。容量はものによるだろうが大きいものなら6Lは入りそうだ。
背負子のようなものにくくりつけるか、そりのようなものを使って運搬するしかなさそうだ。
「金稼ぎをするには効率よく大量の水を運搬しなければならないわけだ。まあとりあえず、二人でどれくらい運べるか調べてみるか」
「そんじゃあまずはそり借りるか。っつっても家に戻れば用意されてるとは思うけどな」
食事で汚れた手を砂でこすり洗うと、居候先へと戻った。
下野の言う通り家の入り口前には、1mほどの細い壺がそりの上に2つ括りつけられている。そりにはまだ余裕があり、後2つはそりに取り付けられそうだ。どうやらこの家では一日に壺二つ分の水で事足りるのだろう。そりに取り付けられる壺の数から考えてこの家に壺が4つある。2日に一度水汲みに行けばいいはずだ。恐らく、居候の僕たちに仕事を与えるためにわざと毎日水汲みに行かせているのだろう。しかし、これは好都合。今日はテストだけになると思っていたが、銀銭を貰えるかもしれない。
家主に腕のブレスレットを取りはずして返却した。麻のローブはこの暑い砂漠を歩くためには必要だからと貸してもらえた。
そりを引いてみると思っているよりも安定していてそう簡単には横転しないように感じた。
「よし、それじゃあ行きますか。まずは水汲みしてほしそうな人を見つけて、取引しよう」
「絶対にやらなきゃならねぇ重労働だ。需要は絶対にあるからな上手いことやろうぜ」
二人でそりを引き、銀を持っていそうな家で水に困っていそうな人物を探して街を歩き回ることにした。
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