神官と話し合い

 僕と下野が通されたのは礼拝堂の大広間からつながる8畳ほどの部屋だった。部屋には宗教関連の書籍の置かれた本棚と仕事をするための机と椅子が置かれている。

 神官は部屋に入ると僕たちに何か問いかける。これは間違いなく英語だ。しかしあまりにも早口で何を言っているのか聞き取れない。英検準2級を受けて、リスニング問題で点数を落としたような人間だ。ゆっくり喋ってもらわないと、とてもではないが会話にならない。


「はーん、なるほどね」


「何?下野聞き取れたのか?」


「英語のリスニングは得意だからな。なんでもこの人はアルー教って宗教の神官でアスポロっていうらしい。んで、俺たちが遠い異国から来た人間でアル―教を信仰していない民族だとわかったから何があってこの地に来たのかを知りたいそうだ」


 下野は寝ていたらいつの間にかだし、僕に至っては事故って吹き飛ばされたと思ったらここに居た。これ以上に答えようがない。一応日本という国から来たということも伝えてはみる。

 しかし、どうやらこのアスポロという神官は日本なんて国は聞いたこともないようだ。髪と筆記用具を貰い、ひらがなを書いてみるが見たことがないという。


「うーん……こりゃ日本語でコミュにケーションを取るのはこの世界では不可能ってことになるな」


「俺たちみたいに迷い込んだ連中はすぐにわかるからその点はいいのかもしれねぇな」


「それ良いって言えるのか?」


「安心感あるだろ?カイトも俺の日本語を聞いて安心しただろ?言葉がわかる人間がいるってのはさ」


「確かにそう思った……。じゃあ、良いことなのか」


「そういうもんなんだよ」


 アスポロ神官は大きな本を取り出して机の上に広げた。どうやら世界地図のようだ。相変わらず僕には何を言っているのかわからないのだが、下野がどうにか話を理解して受け答えしている。

 8分ほど二人の話を聞いていると会話が終わり、部屋を出ていいと言われたようだ。


「なんだって?」


 部屋を出ると話の概要を聞くと、下野は少しにやけた顔をした。


「うん?地図見させてもらって日本を指させって言われたんだが、見たこともない地図だから日本なんて載ってないから何とも言えなくてな。でもまあ、良いことわかったぜ」


「良いことってなんだ?」


「この世界は思っているより狭いってことと、北方に文明レベルがやたらと発展しているカーデリア王国があるんだと。日本とやらに戻るならそこを目指すのが良いってよ。5日で地図の複製と、国を行き来するときに必要な国家間の通行許可証を作ってくれるってよ」


「随分と気前の良い話だな。人を助けることが良いこととされる宗教観なのかな?」


「そうなんじゃないか?通行許可証ってのを作るのにアルー教への入信が必須だって言ってたし、宗教を広めることが信仰にもつながっているってことなんじゃねぇかな。俺にはさっぱりわかんねぇ話だが、まああの神官様がやってやるというのだから甘えようぜ」


 下野のおかげで目的地が明確になった。しかし、思ったより狭いとは聞いたが、それがどの程度なのだろう?まあ、あまり期待しないでいよう。きっと日本縦断どころの距離ではないはずだ。


「ああそうだ。金や旅の道具はこっちで用意しろってさ。仕事見つけて用意しようぜ」


「ああ、わかったよ。そこまで甘くはないよな」


「その前に飯食おう!腹減った」


 礼拝堂を出て、活気あるバザーの方へと走った。

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