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水を飲みながら、僕と下野は軽く自己紹介をした。彼は18歳の高校3年生。上下黒いジャージ姿をしているのは、夜遅くまで勉強をしていて寝落ちして、目を覚ますとこの世界に居たのだという。
「いやー本当に参ったんだぜ。俺は大きな岩の下で目が覚めてな。辺り見渡したら砂漠が広がっているだろう?夢か、勉強に疲れて頭がショートしてVRゴーグルでもつけてゲームでも起動したのかと思ったんだが、目元に手をやっても何もないし、間違いなく砂に触っている感触があるわけだろ?日差しは刺すように暑いしよ?まあ、たまたまこの町がすぐそばにあったからよかったけどな」
「いったいいつこっちに転移したんだ?」
「7月28日だ。お前のスマホ見るに今日は8月1日らしいから4日前だな。つってもこっちの世界じゃもう1週間はたっているからな。俺たちの世界とは時間の流れが違うんだろうぜ」
「なるほどね。ということはあっちではまだ1日経っていないってことか」
「事故って飛ばされてきたんだっけか?すげー安直な異世界転移してるよな」
「それは僕も思っているよ」
下野が火が弱まってきている暖炉に薪をくべる。こんな砂漠でも薪は手に入るのは、物流がちゃんと整備されていることの証だ。
「そういえば、下野はさっき現地人の言葉がわかるのか?」
「完全にはわからないが、よく使う言葉はなんとなく意味が解ってくる。挨拶とか、水、礼拝堂、あれ、それ、シーとかな。ああ、シーてのはこの辺りで流通してる貨幣のことな。英単語覚えんのと同じ要領だから簡単だぜ?」
「成程な。なら今わかる範囲で教えてくれないか?しばらくは周辺地域にいるわけだから」
「そうだな。とりあえず必要そうな単語だけな」
下野に習い、挨拶の仕方や数字、水や食料、トイレ、これ、それ、欲しいといった単語を学んだ。どうやらこの国では基本的に単語の組み合わせで会話を進めるようで、文法というべきものはないらしい。
あとは、時間の概念がないとのことだ。暗くなったら寝て、明るくなったら行動するので時間は気にしていないらしい。
「成程、じゃあさっきの掘りの深いおっさんはハールサババカって言ってたから、ハールサがお前、ババカが誰ってことだから、『お前は誰だ』って意味だったってわけか」
「そういうことだ。理解が早いな。単語覚えるの得意なのか?」
「そうでもないよ。ただ、最近の勉強漬けでこれくらいの単語暗記は大したことじゃないと思えるようになっただけ」
「あーちょっと頭のねじ飛んできてる感じか。わかるぜ」
下野と話していると奥からあの彫りの深い男が出てきた。
「ハールササ、リーリムン」
これはサが一つ増えたのでお前たちリーリムンはわからないが、恐らくリーリが早くという意味でムンが寝るって意味だろう。
「オー」
オーはわかったという意味だ。
彫りの深い男は僕のコップをもって奥へと引っ込んでいった。
下野のおかげでとりあえず現地民とコミュニケーションは図れそうだ。
「さて、ああ言われたことだし、暖炉消して寝るか。寝床はそこだ」
下野の指さした先には3メートル四方の厚めの麻布が床に敷かれ、その上に毛皮のようなものがかぶさっている。
「あそこで男二人くっついて寝るってか?」
「あの毛皮でもかぶってないと寒くて寝れないぜ?」
「背に腹は代えられないってことか」
「そういうことだ。俺だっていい気分じゃないんだ。お互い我慢して寝ようぜ」
暖炉の日が燃え尽きるのを二人で確認して、暗がりの中毛皮の中に潜り込んだ。地面の麻布は地面からの冷気をほとんど防いではくれないし、石床の堅さを感じる。一応、毛皮があったかいので寝れなくはない。
「明日は朝早くから礼拝堂に行くことになるから、ちゃんと起きるんだぜ?」
「わかったよ。じゃあお休み」
目を閉じると、一日中歩き回ったこともありすぐに意識は薄れていった。
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