モンスター、宝箱を置きに行く。

猫野 ジム

ダンジョンに宝箱を置く仕事

 ここはダンジョンの最深部。ゴブリンとミミックはこの最深部へと続く道の手前まで来ている。ダンジョン内の指定された場所へ宝箱を置きに行くことが彼らの仕事である。


 ゴブリンとは身長1メートルほどの二足歩行の緑色の魔物で、ミミックとは宝箱の外見をしており開けた者を鋭い牙で襲う魔物だ。


「やっと次で最後か……」


「このダンジョン広すぎるよな。疲れたぜ」


「いやミミック、お前は俺についてきただけで何もしてないだろ。重い宝箱を抱えて歩き回る俺の身にもなってくれよ」


「いやいや、俺は魔王様から好きな場所で勇者を待ち構えていいと許可が出ているからな」


「だからって手ぶらで来るなよ……。お前も宝箱を持ち運んでくれれば倉庫まで取りに戻る手間が半分になって効率的だろ」


「僕、宝箱なんで無理っスね」


「『僕、宝箱なんで』じゃねーよ。倉庫と指定場所を何往復したと思ってんだ」


「まあまあ、同期の仲間じゃないか。俺は俺でしっくりくる場所がなかなか無くて大変なんだよ」


「この先はもうダンジョンボスのドラゴンさんがいる部屋だけどな」


 現在地は少し広い空間になっており、そこからは先が見えないほど長い一本道になっている。そこを抜けた先にボス部屋があるという。


「ミミック、本当にここでいいのか?」


「最深部だからこそいいんだよ。苦労して到達した場所に宝箱があったら、怪しいと分かっていても開けてしまうだろ?」


 ゴブリンはそんなもんかねと思いつつ、気になることをミミックに聞いてみた。


「なあ、この宝箱って何のために置くんだ?」


「なんか魔王様が、早く勇者と戦うためにサポートしてるとかなんとか。血に飢えているとかいつも言ってるらしい」


「単なる戦闘狂じゃねーか!」


 ゴブリンとミミックがそんな会話をしていると、人影が近づいて来た。全部で4人。勇者とその仲間だった。


「おいミミック! 勇者が到着するのはまだのはずじゃないのか!?」


「俺だってそう聞いていたさ! でも実際来たんだから仕方ないだろ!」


「お前強いんだろ? なんとかしてくれよ」


「俺はミミックだからな。箱を開けた瞬間に噛み付くという奇襲が得意なんだ。強くはない」


「使えねー箱だな」


 ゴブリンは考えた。勇者には絶対に勝てないことは分かっている。だからといって逃げ場は無かった。進んでも戻っても一本道だからだ。


「こうなったら仕方ないか……」


 ゴブリンは今抱えている宝箱を開けることにした。中身を見ることは禁止されているが、ダンジョン最深部に置くような宝箱だ。きっと強力なアイテムが入っているに違いない。


「こ、これは……!」


 宝箱の中には魔神の秘薬という、飲んだ者は一時的に限界を超えた強さが身に付くといわれる超貴重品が入っている。


「何て幸運だ! 早速使おう!」


 ゴブリンとミミックは魔神の秘薬を半分ずつ飲み、勇者達と戦った。

 すると勇者達の動きが手に取るように分かり、圧倒された勇者達は撤退していった。



 後日、ゴブリンとミミックは魔王に呼び出された。


「俺ら褒められるよな! ドラゴンさんの手を

わずらわせることなく勇者達を撤退させたんだからな」


「俺なんてミミックだからな! 奇襲じゃなく敵を倒したんだから勲章ものだぜ」


 そして2人は魔王から説明を受けた。


『魔神の秘薬は1年に1本しか作れないということ』


『ダンジョンボスのドラゴンは勇者達と戦うことを楽しみにしていたこと』


『そのままではドラゴンの方が圧倒的に強いため、ワザとボス部屋の前に魔神の秘薬を置いて勇者達に飲ませ、ワザと互角の勝負にしようとしていたこと』


『ゴブリンにすら負けた勇者達はありえないくらいレベルを上げてきたため、ドラゴンが秒で負けたこと』


 などを聞かされた。


「単なる戦闘狂じゃねーか!」


 2人は魔王から引くほど怒られた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

モンスター、宝箱を置きに行く。 猫野 ジム @nekonojimu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ