変化する箱

温故知新

変化する箱

「うわぁ〜」



 年度末が迫る中、地元の役所に勤めている俺は、会議室いっぱいに敷き詰められた大小様々な箱に絶句していた。


 新年度に新しい管理職が増えるということで、俺のいる部署は事務室のレイアウトを変えることになった。


 そのため現在、職員全員で事務室にある不要な書類を、予め押さえていた会議室に運び出しているのだが......



「おおっ、どれもこれも初めて見る書類ばかりだ」



 小休憩がてら、俺は近くにあった箱の中身を開ける。

 そこには、俺が産まれる前に作成されたであろう会議資料が乱雑に入っていた。



「一体、どこにこんなものが入っていたんだよ?」

「それはもちろん、事務室奥にある倉庫に決まってるだろうが」

「あっ、先輩!」



 大きなダンボール箱を置いた先輩は、会議室にある大小様々な箱達にため息をついた。



「俺も詳しくは知らんが、昔は今みたいにネットを発達していなかったから、こうして紙に出してはファイリングしたり、箱に入れたりして保管してたみたいだぞ」

「それは、見ないと分かっていてもですか?」

「あぁ、そうみたいだ」

「そうなんですね」



 俺が産まれた時には、既に携帯やネットが普及し、小学生の時には授業の一環としてPCに触れていた。

 そして、社会人として働き始めた今では、職場で支給されたタブレットやノートPCで仕事をするようになった。


 だがら、今を生きる俺には、昔の仕事の仕方がどうしても非効率にしか思えなかった。

 だって、資料の作成や保管はタブレットやノートPCを使って、ネット上のフォルダーに入れればいいのだから。


 そんなことを思いながら目の前の箱に首を傾げると、不意に先輩が俺の肩を叩いた。



「まぁ、今はぺーバーレス化が進んでいるからな。あと少しすれば、不要になった紙の資料を捨てることも無くなるだろう」

「そうですね」

「さて、まだまだ箱はあるからな! さっさと運ぶぞ!」

「はい!」



 不要になった箱達を一瞥した俺は、先輩と共に会議室を出た。

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