第10話 箱根の麓にある漁港







  箱根に向かって出発したあたしらは、パトカーに止められたことで出足から躓いた。


 ハザードを焚いて左に寄せれば、後ろのパトカーを止めて出てきたお巡りさんとご挨拶の時間だ。


 免許証、ついでに車検証を見せたあたしは、お巡りさんと雑談しながら、なんで止められたのかを訪ねたところ、県外の土〇ナンバーの鬼キャン&シャコタン仕様のプリウスが、安全運転で走っている姿が却って怪しかったらしく、おまけに初心者マーク付きだから尚更だとか。


 免許証を見せれば、あたしが免許取り立ての女子高生だってことにも驚きを隠せなかったご様子。


 そりゃあね、あたしは背伸びを通り越しているから当然だよな?


 どこへ向かうのかも聞かれ、早川で漁港飯を食べてから箱根の温泉テーマパークに行ってくると告げれば、旅の無事を祈って無事に解放してくれたって訳だ。


 ヤンチャしていた過去もあってか、お巡りさんとのやり取りも慣れたもので、元々素直な方だったからそう邪険に扱われることもなかったし、むしろ学校の先生よりも話やすかったよ。


 さて、そんなことよりも気を取り直して目的地に向かってしばらく進んでいれば、今日はやたらにパトカーが多いような気がする。


 悪目立ちをしているかもしれないけれど、あたしたちの乗るプリウスの後ろがお気に入りらしい。


 エスコートしてくれることもあれば、明らかに怪しいからか、またしても止められることもしばしば。


 中には「同僚が言ってた子って、君たちのことか! うん、それじゃ、気を付けてね!」……と、気にかけてくれたりもした。


 やっぱり目立ちすぎるのも考えもので、区や市を跨いで管轄が変われば、同じような出来事に何度も遭遇し、その度にウィラと小幡は大笑いって訳だ。


 そうしてようやく早川港に辿り着く頃には、ちょっと早い昼飯時だったのさ。


 お巡りさんにある意味でナンパされたのもそうだけど、下道のみで行ったからちょっと時間がかかってしまったよ。


 シャコタン仕様のプリウスでも問題なく入れそうな駐車場を探し、駐めてから久しく地に足をつけたあたしらは、揃いも揃って早速身体を伸ばすことから始めれば、ちょっと乗り心地のよくない箱から解放されたことで、テンションが上がったのさ。


「ナギ! 海や! 川もすぐそこや!」


「そうっすね、早川っすからね。姐さん、あとで小田原城にも寄りたいっすね」


「ああ、悪くないな……小幡、それならさ、明日の方がゆっくり見れるんじゃないか?」


「そうっすね、賛成っす」


「ナギ、せっかく漁港に来たんやから、はよお魚さん見に行こか」


「じゃあまずはお魚センターだな」


「今日の夕食、ナギに任せてもええんとちゃうか?」


「会長、流石に魚が持たないっす」


「ウィラ、気持ちはわかるけどさ、今日はクーラーボックスなんか持ってきて無いし、包丁持ち歩く訳にはいかないだろ? お魚を見たら海鮮丼でも食べようぜ」


「姐さん、あったら捌く気だったんすね」


 そんなこんなで一つ目の目的地に到着したあたしらは、観光気分でご機嫌そのもの。


 ところ変わって学業から解放されたあたしらイツメンの女三人寄れば、いつにも増して姦しいものであった───。








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