第9話 ハコ(交番)からの使者
◇
インターホンが鳴って玄関のドアを開ければ、プールメイクでおめかしバッチリのウィラと小幡を迎え入れようとしたその時だ。
「アナタハ~、カミヲシンジマスカ~?」
朝っぱらからボケをかますウィラに対し、小幡は思わず吹き出した一方、あたしは間に合っているので、ゆっくりと玄関のドアを閉めた。
「ナギナギナギ! 冗談やって!!」
全く、朝から元気そうでなによりだけど、貧乏神を押し付け合っただけあってか、布教活動に熱心だな?
冗談はともかく、再び玄関のドアを開けて二人を出迎え、おはようの挨拶をそこそこに、箱根の温泉テーマパークに向かうカボチャの馬車へとご案内だ。
借りてきたプリウスを目の前に、小幡はまたしても吹き出し、ウィラはなにか言いたげな模様であり、口を開けばボロクソにこき下ろすこと請け合いだろう。
「ナギ、この車やけどな、空から降ってきたんか? タイヤがハの字に傾いとるっちゅうか、これもうアメンボやろ? ほんで地面にベッタリやし、これ、地面に埋まっとるっちゅうか、壊れとるんとちゃいますか?」
アメンボって、その発想はなかったから思わず笑ったよ。
小幡は相変わらず笑いが止まらないようだし、ウィラの突っ込みであたしらはハの字ならぬ、身体を’く’の字に曲げる羽目になるって訳だ。
「姐さん、鬼キャンとシャコタンもそうっすけど、ゾロ目で字光式の土〇ナンバーとか……数え役満っすね」
「ああ、バックミラーに葉っぱの芳香剤も吊るしてあるぜ?」
「あんたら、なんかおもろいことでもあったんか? さっきからなに笑とんねん?」
ウィラを置いてけぼりにしたまま、小幡とひとしきり笑い倒して落ち着いた頃合い。
不思議そうな表情のままのウィラを助手席に、笑いすぎてお腹の痛い小幡は後部座席、そして運転席のあたしは、最終確認をして出発だ。
マフラーを変えているその割には、意外と静かなままのプリウスであるが……ま、車高が低い分、余計なノイズも入るけれど、一番煩いのはこいつだ。
「ナギナギナギ! めっちゃ擦っとるんやけど!? これ、ほんまに大丈夫なん!?」
「会長、大丈夫っすよ。田舎のヤンキーあるあるっす。それより姐さん、運転上手いっすね」
「ああ、さんざん練習させてもらったからな」
「先生に感謝っすね」
「ナギ! そんなん言うとる場合とちゃいますわ! なんか後ろからパトランプ光っとるで!?」
全く、普通に安全運転しているだけだって言うのに、パトカーぐらいで騒ぐなよな?
『そこの土〇ナンバーの黒のプリウス、停まってくださーい……』
「ナギ、それうちらやろ?」
「姐さん流石っすね、全国的に有名っすから」
おいおい、法定速度を守っててそれかよ?
全く、勘弁してくれよな……ハザードランプを焚きながら左に寄せて停車した後、まずは財布を手に取り、中から免許証を取り出した。
あとはダッシュボードの中にしまった車検証を用意してと───。
◇
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