第7話 ある意味で箱の押し付け合い







  予想通りと云うか、帰りは日付を跨いでしまったことで、シンデレラタイムは延長戦。


 まだ二十歳を待てないあたしは、お巡りさんのお世話になったら大変だ。


 深夜の時間帯であれば地元ナンバーならともかく、他県ナンバーの場合は、下道だと停められる可能性も高く、車高が低くて鬼キャンだから尚更だ。


 そんな訳でちょっと出費は痛いけど、深夜のハイウェイをかっ飛ばしてキャノンボール。


 警察車両には遭遇しなかったものの、時折、いかにもな走り屋に煽られ、直線は無理だけど、コーナリングで置いてけぼりにしながら、謎に速いプリウスで駆け抜けた。


 さて、ようやく馴染みのある風景が見えてきた。


 ミッドナイトブルーをバックにライトアップされたビルや橋、港の工業地帯は煌めきながら、今を生きるあたしを変わらず迎え入れてくれるものだから、思わず笑みが浮かんだ。


 素敵な夜景を一人占めにしながら、あと一息だからといっても油断は大敵。


 高速を降りたあたしは、帰るまでが遠足だと再び気を引き締め、『メゾン サルゴ・リラチンパンジー』までの道のりを安全運転で駆けていった。


 ようやくたどり着いた頃には、もう午前1時か……あいつら、まだ起きてるかな?


 とりあえず『メゾン サルゴ・リラチンパンジー』の前にある駐車スペースに、一時的に車を置かせてもらい、これについては前もって大家さんに許可をもらっているから、特に問題はないだろう。


 それよりもあれだ、ウィラと小幡はまだ起きているのだろうか?


 明日は漁港の市場飯を食べたいから、なるべく早めに出発したいし、出来るだけ渋滞も回避したい。


 もしかしたら、前日にテンションが上がって夜更かししているかもしれないし、普通に受験対策しているかもしれない。


 ま、そんなことよりもシャワーを浴びたいし、あたしは二人のことをそっとしておいて、部屋の鍵を開けてただいま。


 電気を付けて手洗いうがい、メイク落としをしてから早速、シャワーを浴びる準備を整えて服を脱ぎ、1日の疲れと汚れ、そして焼き肉の匂いを洗い流した。


 シャワーから上がり、身体を拭いてからタオルケットのように大きなバスタオルで身体を包み込み、スキンケアは欠かさない。


 その次は髪を乾かして、歯磨きも済ませて明日用の荷造りで不足しているものが無いか、再確認をすればバッチリだ。


 目覚まし時計をセットしたし、一応寝る前にメッセージをチェックすれば、ウィラと小幡の二人から……おい、お前らさ、なに夜更かしして貧乏神を擦り付けあっているんだよ?


 全く、興奮して寝れない二人に対し、「あたしはもう家に着いた。いいから早く寝ろ」とメッセージを送りつけてからベッドに入り、バイブが鳴っても無視しているうちに、やがては意識が落ちていった───。







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