第6話 先駆ける箱に乗って
◇
旧友たちと再会したあたしは、彼らと喜びを分かち合ってからというもの、まずご飯を食べに行く流れになったのは言うまでもない。
それに彼らの車を借りる以上は、多少でも奮発しなきゃ気が済まない。
彼らは気にしないでと言うけれど、それだとフェアじゃないと諭し、今日はあたしの奢りで焼き肉の食べ放題を提案すれば、彼らの目の色は輝いたものだから、なんとも男所帯らしいね。
ご飯に行くその前に、あたしの借りる車の現状を確認してみれば、ハイブリッドカーの先駆けであるプリウスか……燃費もいいし、静かで最高だ。
何故か極端に車高が低いこと、鬼キャン仕様なのは予想通りだけど、マフラー交換までしているのはどうなんだ?
ハイブリッドカーの燃費的に意味無いんじゃないか?
「姐さん、不思議な顔してどうしたんっすか? ハイブリッドカーでも、マフラー変えれば軽量化になりますし、ものによっては高速域の燃費が上がるっす」
「へぇ~、知らなかったよ……で、鬼キャン仕様にしておきながら燃費? よくいうぜ?」
これには一本取られたというのか、あの頃と同じく笑い合ったのだ。
プリウスの車検証、ナンバーをメモったあたしは、彼らを焼き肉の食べ放題へと連れていく道すがらのコンビニに立ち寄り、今日から返すまでの数日分の1日自動車保険に加入した。
その後、男所帯らしい焼き肉の食べ放題を満喫すれば、結構良い時間……こりゃあ帰る頃には日付を跨ぎそうだ。
もう少し先だけど、大人になったその時は、酒を飲み交わして楽しもうじゃないか。
楽しい時間はあっという間で、ガレージに戻ってから早速、ウィラに『帰りが遅くなるから先に寝ていてくれ』とメッセージを送り、それからしばらくもしないうちに、『了解! 無事に帰ってきてや』と、返信が来たことで一安心。
今を生きるあたしは、少し懐古に浸ってから現実へと戻ってきたのだ。
メッセージをやり取りしている間、あたしに少なくとも男が出来たことを知ってる彼らは、気になって覗き込もうとするものだから参ったね?
どんな男かは、あたしが卒業するまでの秘密だから明かせないけど、今、やり取りしている親友の写真を見せれば、彼らが大はしゃぎしたのは言うまでもなかった。
「姐さん、俺に今度紹介してよ!」
「リク、ウィラの性格、あたしよりもキツいぞ?」
「姐さんの尻に敷かれ慣れてるっすから」
「この敷かれゴコチがタマラナイね」
「姐さんより……うん、控えめだね?」
「全く、お前らは……」
調子が良いのも相変わらず、そんな彼らに礼を言ってプリウスに乗り込んだあたしは、箱根のお土産と土産話を約束し、大手を振って見送られながらゆっくりと走り出した……あっ、マフラー擦った……全く、車高低すぎるって!
バックミラーに映る彼らは、段々と小さくなっていく姿に後ろ髪を引かれるけれど、いつまでも手を振って……やがては見えなくなっていった。
さて、懐かしむ時間はここまでにしよう。
今を生きるあたしを待っている、あいつらのところへと帰ろうか───。
◇
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