第5話 箱(ガレージ)へ
◇
リクの運転するシャコタン&鬼キャン仕様のインスパイアで、過去のあたしたちの思い出が詰まったおもちゃ箱、ガレージ前の段差に悪戦苦闘していれば、中で作業をしていたスティーブとマーティンの二人は、作業する手を止めて駆け寄ってきた。
「リク! お前、ヘタクソ」
「バシッと決めて、姐さんに良いとこみせろ!」
車の外ではしゃぐ二人に、リクは思わずムキになるけどさ、このままじゃバンパーを買い換える羽目になるぜ?
「リク、あたしにハンドルを貸せ」
「姐さん、面目ないっす」
そんな訳であたしと交代するため、一旦車から降りるスペースが必要になり、少し動かしてもらってからドアを開ければ、スティーブとマーティンが屈託のない笑顔を浮かべ、あたしを歓迎したのだ。
「ネーサン! 久し振り! 会えて嬉しいよ!」
まだほんのりと片言感のある日本語で、あたしを歓迎するスティーブも久々に会えば、随分と大人の男の顔になったものだ。
あの頃と変わらない坊主頭そのまま、今度は髭まで生やしやがってさ、なかなか渋い良い男になったけど……まだ18になってないのに、ちょっとおっさんくさいぞ?
「よう、スティーブ。久しぶりだな! お前、今度はジョブス気取りか? 新製品も発表したんだってな? それで、景気はどうだい?」
「ネーサン、ソレ言うならジャン・レノと言ってくれよ? ま、景気はボチボチだね」
「そうかそうか、元気そうでなによりだ。ところで、ショーン・コネリーがなんだって?」
「ソレ、シブスギルよ! ま、新製品はナイけど、ネーサンに会えて元気ダヨ」
スティーブもあたし程じゃないけどさ、ジョブス、ジャン・レノ、ショーン・コネリー並みの身長(188cm)まで伸びて箔も付いてきたものだ。
こいつとバグをするのも久しいもので、その様子をマーティンは羨ましそうに眺めてやがるからさ、ちょっと待っててくれよな?
「マーティン、お前も久し振りだな! こっち来いよ?」
「姐さん……会いたかったよ!」
スティーブに続いて、マーティンを抱きしめるのも久々だけど、なんていうか……大人の階段を駆け上がってしまったあたしには、昔と違う恥じらいのようなものが芽生えてしまってね?
ああ、マーティンはあまり身長が高くなく、マイケル・J・フォックスによく似ている。
あたしとバグすれば当然、大人と子供ぐらいあるし、何よりも……そうだよな、あたしの大きなチョモランマ二つが、マーティンの顔を包み込んでしまうからさ、ちょっと危ない構図だよね?
続いてリクも抱きしめて、ご挨拶はこれぐらいにしておこう。
大人の階段を上ったからわかったことなんだけど、あたしとバグしたこいつらが、しばらく前屈みになる理由も今ではよくわかるよ。
さて、そんな健康な男児たちにお手本を一つ。
リクのインスパイアの運転を変わり、ハンドルと細かく切り返し、アクセルワークを丁寧にゆっくりと、まるで初な乙女を扱うかのようにして、車庫入れは完了した。
全く、あの頃のこいつらもさ、もう少しでも理解があればさ、あたしの気持ちも少しばかりは変わっていたかもね。
なんというか、こいつらがあたしとそういう関係にならなかったのは、きっとあたしが背伸びをし過ぎた、背が伸びすぎたからなのかもしれないね。
結果、こいつらが大人の男性になるまで待てなかったあたしは……ま、その話はまたいつかの機会にしようか───。
◇
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