第3話 箱(セダン)







  放課後、ウィラと小幡を置いて一先に帰宅したあたしは、早速制服を脱いで身支度を整え、運転しやすいラフな私服に着替えてから駅へと向かった。


 あたしの地元までは電車を乗り継いで2時間ぐらいか、そこから友達と合流して車を借りて帰れば、日付が変わる前までには帰って来れるだろう。


 もっとも、どんな車が用意されているのかは、行ってみるまでのお楽しみとのこと。


 車を借りる以上は、飯ぐらいごちそうしないといけないし、お土産の希望も聞いておかないとね?


 都心を通りすぎるまでは、まるで座れる気配もなく、あたしの身長とお胸の大きさ的に考えて、この世の地獄とまではいかないけど、なにかトラブルが無いかヒヤヒヤするものだ。


 ようやく都心を抜ける頃には、座る余裕が出来てゆっくりと腰を下ろし、車窓から見える景色がだんだんとビルから住宅へと移り変わり、次第には畑と田んぼばかりの田園風景へと様変わりしていく。


 よくもまあ高校入学から、郊外と田舎の境界線上とも言える地元を離れ、一人暮らしをしようなんて考えたものだよ。


 結果的には正解だったし、最高の友人たちに囲まれ、最高に居心地のいい学校生活を送れる、青春の日々に感謝だよ。


 おかげで地元の友達とは、ちょっとだけ疎遠になってしまったけれど、今でも変わらずに歓迎してくれるだけありがたいってところだ。


 そんな訳で帰ってくるのは長期休み以来か、駅のホームから改札へと降り、あたしのことを待つ友人がこちらに気付いたのか、大手を振って迎えてくれた……ああ、あたしの身長ならさ、まず見間違うことなんてないからね?


「チィッス! 姐さんお久しぶりっす! 元気そうっすね!」


「おう、久しぶりだな。リク、お前も元気そうでなによりだ。スティーブとマーティンは?」


「ウッス! あいつらなら姐さんの為に車を整備してるっす」


「急で悪いな、早速案内してくれ」


 久々に会った地元の友達だけど、相変わらずヤンキースタイルが抜けきっていないものの、思ったよりも礼儀は正しく、あたしに対しては殊更に敬意をもって接するのは、昔と変わらない。


 小幡と同じく、あたしのことを『姐さん』呼ばわりするのも相変わらずか。


 中学時代はさ、英語講師のジェフと一番仲がよかったけれど、少なからず仲のいい同級生もいた。


 もっとも、女子よりも男子と仲がよかった……と言うよりも、勝手にあたしの舎弟になっていた。


 リク、スティーブ、マーティンは、あたしと同じく海外出身か、または両親のどっちかが外国人、あるいは両方ともだったりしたからか、親近感を覚えていつの間にか仲良くなっていたのさ。


 特にあたしがグレたときのお供だったのもあり、あの時は色々あったな……ま、そんな訳で単車や車に触れる機会も多くあったからか、今でもこいつらは乗り物が好きって訳さ。


 もちろん、今ではちゃんと免許をもっている。


 都心と違って、郊外から先は運転免許必須だからね。


 当然のようにリクも車の免許を持っているし、さて、どんな車で来たのか、彼に案内された駐車場には……ああ、やっぱり黒塗りのセダン、インスパイアを買ったのか。


 もちろんホイールにキャンバー角をつけたハの字型、シャコタンで地面スレスレってぐらいに車高が低いな!


 ああ、ヤンチャしていたクソガキの感性をそのままに、こりゃあ間違いなくさ、あたしに貸し出す車も似たようなものかもしれないね?───。








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