第2話 いつか振り返れば、最高の思い出の詰まった宝箱
◇
温泉テーマパークへ行く計画を立ててからというもの、あっという間に金曜日を迎え、お昼休みとなれば、いつものメンツで食堂のテーブルを囲んでいた。
いつものようにきつねうどんを啜り、とても幸せそうな笑みを浮かべる狐顔美人のドイツ系関西人のウィラは、いつか尻尾を出すんじゃないかと三年近く観察しているものの、今日も変わらずご機嫌なようでなによりだ。
「カズサちゃん、明日なんやけど、どこで拾えばええんや? なんならうちの家泊まってもええんとちゃいますか?」
せっかくだからと入学初日から仲良くなったイツメンの 小幡 上総(オバタ カズサ)も誘い、ちょうど彼女も予定が空いていたことから、明日は’箱’根の温泉テーマパークへとご案内って訳だ。
「そうっすね、会長のとこ泊まったら姐さんもすぐ拾えるっすからね。でもあれっすね、会長の部屋、ちゃんと片付いているんっすか? 前泊まったときっすけど、部屋にパンツが転がってたっすから、会長の女子力の無さにヒビったっす」
一見すると気だるげで眠そうなタレ目と、同い年のあたしらに対してやる気のなさそうな後輩口調が特徴的な彼女は、なんだかんだで言いたいことははっきりとしていて、さりげない毒舌をかますこともしばしば。
彼女の言う『会長』は、生徒会長だったウィラの通称として使い、それ以前はどうだったのかと言えば、ウィラ・フォン=ノイマン だから、「フォンさん」と何故かミドルネーム呼びをしていた。
その度にウィラからよく突っ込まれていたが、あくまで通称呼びに拘っていた小幡の生きる時代はきっと、未だに明治維新すらしていないのかもしれないね?
あたしに対しては、初めて会ったときから「姐さん」呼ばわりであることに変わらず、生徒会に所属していた時期は、「書記長」とも呼ばれてもいた。
「いや、カズサちゃん、ちゃうねん。あれな、たまたま洗濯物が溜まっとっただけやし、ちゃんとなおしたはずやから、流石にそらありえへんで?……知らんけど」
「姐さん、出番っす」
「相変わらず世話が焼けるぜ? あたしはお前のマミーかよ?」
「そらうちのおかんみたいなもんやし、頼りにしてはりますわ」
「そうっすね、姐さんは会長のお母さんっすからね」
イツメンといつも通りの楽しいランチタイムを満喫し、チャイムが鳴れば三人揃って同じ教室で午後の授業。
授業中、教科書にグルメガイドを挟みながら読み耽り、気になる場所をピックアップしていけば、明日まで待ちきれない。
ああ、温泉シチューパンもいいね。
’箱’根を観光する上で行きたいところがたくさんあるからこそ、日帰りなんて勿体ないので比較的リーズナブルな宿も取ったことだし、温泉テーマパークを楽しんだあと、そして翌日への供えもバッチリだ。
そうしているうちにいつの間にか授業も終わり、黒板と違ってノートは真っ白なままだった。
だが、明日のあたしたちはさ、真っ白なキャンバスに最高の思い出を刻んでいくんだ。
やがて、いつか振り返るときにはさ、最高の思い出の詰まった、まるで宝’箱’のようなものなんだろうね?───。
◇
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