Part2~その力の使い道~
力とは、使い道がある。
かつて、それがかつて那月が自身の師匠から習った最初の言葉だった。
「力っていうのは、能力のこと?」
まあ無知だった那月は、そんな的外れな言葉で問いかけたものである。
「論外だな」
「何で?」
「貴様は、力とは何か本当に知っているのか?」
力とは何か、そして、それの使い道とは。
その問いのを再現したのが、彼女の、師匠の生き様であった。
照り付ける陽に眉を顰める。
ゆっくりとベットから起き上がった那月は、昨日の自分が、戦闘による極度の疲労感と、緊張が晴れた後の安心感で眠っていてしまったことを知った。
その証拠に、ベットの上には昨日来ていた制服とリボン、所々焦げ跡などの損傷が見られるタイツやスカートが見て取れる。
彼女はうつろの様に照り付ける陽の光を眺めて呟いた。
「随分とまあ、懐かしい夢を見たな」
照り付ける暑さに白い肌を焼かれる。
むせかえるような暑苦しい空気の中、彼女は、CRONUS本部にあるガンスミスのもとを訪れていた。
木と鉄の香りが充満した室内、木製のカウンターは所々ささくれが見られる。
ガス動作のランタンが受付の明かりであり、さながら、西洋の小町、その路地にある武器屋さんという室内だった。
”ガンスミス”
銃を使う人間には欠かせない、銃の制作や詳しいメンテナンスにかかわる人間たちの総称である。この人たちがいなければ、銃自体を扱うのはできないといっても過言じゃない。
この人たちはいわば、刀で言う、”鍛冶師”や”研磨師”と同じ。
それがなければ、銃は銃として生きることはできないのである。
無論、那月の愛銃”M92F”も同様であり、那月自体もメンテナンスしているものの、定期的にガンスミスのもとを訪れているのだ。
「こりゃあ、また随分と派手に打ち合ったみてぇだな」
那月から手渡しで渡されたガンスミスは苦笑し、M92Fの状態を一言で表した。
「掃除やメンテ、自分でできる範囲は行き届いているのはわかる。だがな、こりゃ限度だ。一時預かるぞ」
「ああ、構わない、
「わかった。明日また来てくれ、新品同然で返すよ」
「頼んだ」
自分の相棒を手渡しで渡した那月は、もう一つの話題について切り出した。
「注文した品はできているか?」
「ああ、出来ているとも」
そうしてガンスミスが、一丁の銃を持ち出してきた。
「これが、LARグリズリーか」
「ああ、お前さんの部下が使いやすいよう、反動を下げるカスタマイズとサプレッサー動作式の特注品だ、こいつと一緒に専用のガンケースも用意してある。アタッチメントやらメンテナンス道具もそこに入っているから、一緒に持っていけ」
「ありがとう、これがお代だ、受け取ってくれ」
「毎度あり、同じように定期的にメンテナンスに来るよう伝えてくれ、なかなかに癖のある銃だからな」
豪快な笑いを浮かべてガンケースごとカウンターに置いたガンスミス。
「こっちこそ、毎度無理を頼んで済まない、今度酒でもおごるよ」
「待ってるぜ」
ガンスミスがM92Fを持って工房に入ったことを確認した那月は、愛銃がホルスターにないという違和感を持ちつつ工房を後にした。
彼女にとってのM92Fは、命である。
今は亡き師から渡され、今まで使い続けてきた大切な相棒。
相棒を渡された日から、言われ続けてきたことがある。
「それはお前の命だ。落としたり壊れたりすると、お前は死んだも同然だ。遠距離武装を持たないPMCなぞ、ただのカモだからな」
その教えはごもっともであり、むしろ、彼女は、初めて手に持ったこの銃を使い続けていこうと決めていた。
あれから彼女の師が”あの作戦”で帰らぬ人になったことにより、さらにM92Fというものの存在は、大きくなった。
火が高く昇り、今にも水分を吸い取られそうになる暑さの中、今度は灰色のアパートに足を運んでいた。
くすんだコンクリートに色落ちがひどい壁、蜘蛛の巣の張った蛍光灯。そう、民間軍事会社CRONUSの社員寮である。
那月がここに足を運んだ理由は一つしかない、宵島琥珀に会うためである。
この間の”パイロキネシス”の一件で昇格を命じられた那月は、正式に部下を持つことになった。
その部下というのが、紛れもない宵島琥珀少尉なのだ。
部屋番号を再確認した那月は、インターホンを押す。
「はーい」という男性としては高めの、少年のような声が聞こえた後、数秒してから、目の前の扉が音を立てて開いた。
全体的にみると那月と同じくらいか、それ以上に小柄な体格。一見青年であることを疑うほど、その青年は幼い少年のように見えた。
黒い髪が照り付ける陽に照らされてつややかに反射している。白く澄んだ目は光を受けて星の様に輝いていた。
「那月隊長殿⁉」
慌てて扉を開けたままに固定し、こちらに向き直り、姿勢を直して敬礼する琥珀。
「そういうのはいいよ、琥珀少尉、私は貴官に話をしに来たのだ」
「そうでしたか、わざわざご足労いただき感謝いたします、どうぞ、整理もままなっていない部屋ですが」
再び向き直った琥珀が、私を部屋の中へ案内した。
整理もままなっていない部屋、だといっていたが、部屋内はとことん整理されていた。
汚れの一つもないキッチン、しっかりと整理され、皿が並べられた食器棚、カーペットの上に木製のテーブル、テレビには埃一つ無い。
「整理もままなっていないというが少尉、貴官はもう少し自信を持ったらどうだ?めちゃくちゃきれいだぞ、この部屋」
「そうですかね?一人暮らしをするならこれくらいはできないと」
無意識な琥珀の弓が彼女を襲う。
そう何しろ、めんどくさいで済ませてしまう那月に、まともに家事なんてできるはずもない。料理はできるが、片付けも雑で洗濯物に関しては何とか頑張っているもののからっきしである。
「どうぞ、掛けてください」
テーブルの横にあるソファーに案内された那月はガンケースを足元に置き、そのまま腰を下ろした。
「では、本題に入ろう。琥珀少尉、いや、琥珀。まずは互いの呼び方を変えよう」
「呼び方......ですか?」
「ああ、堅苦しい呼び方はどうもやりにくくてな、好きなように呼んでくれ」
琥珀は、少し考え込み
「隊長.....でしょうか?」
「いやいや、それも堅苦しいだろう」
即那月からの突っ込み、もといダメ出しを受けた彼は再び考え込む
そして出た答えは
「師匠、でしょうか?これからいろいろ教わるわけですし」
那月は少し考えてから
「まだ堅苦しさが抜けないな、まあ、いいだろう。私は琥珀と呼ばせてもらう」
「わかりました。よろしくお願いします!師匠」
「たがいに呼び方が変わって、呼びやすくなった所で、だ」
那月は足元に置いたガンケースを取り出すと、テーブルの上に置いた。
「私からのプレゼントだ。受け取れ」
「え?いやいや、悪いですよ、そんな......」
両手を振りながら断ろうとする琥珀
「じゃあ、隊長命令だ。受け取れ」
そういわれると断り切れないのか、正直な琥珀はそのガンケースをゆっくりと開いた。
「これは......」
そこには、LARグリズリーが鎮座していた。
”LARグリズリー”
M1911自動拳銃がベースになった銃であり、それよりも、より威力に優れた大口径の弾丸を撃ち出せるように設計された銃である。
それにより制圧力と精度に長けた自動拳銃が完成した。それがこのLARグリズリーなのだ。
スライドには「Kohaku」という自身の名前がエングレーヴとともに刻印されている。
「それは特注のLARグリズリー。お前の任務やら訓練やらの動画を視聴したが、円近距離双方の戦闘に長けているからな、射撃スコアの低い近距離をカバーするための銃、それがお前へのプレゼント。グリズリーだ」
惹かれるようにグリズリーのグリップを握った琥珀。
スライドを引き、
再びマガジンを挿入しなおし、金属と強化カーボンがすり合う気持ちのいい音が部屋を反響した。
スライドを引き下げ、ハンマーを親指で引き上げ、トリガーを引くと、重厚な金属音が部屋に轟いた。
再びグリップを強く握り直し、驚いた表情の琥珀。
「ここまで手に馴染む銃は初めてです。一つ一つが丁寧で、僕に合わせて作られている。有難うございます」
嬉しそうにグリズリーをガンケースに直した琥珀。それを見て、意を決したように那月は、真剣な表情で言葉を紡いだ。
「いいか、よく聞け、これから貴様に言い続ける言葉がある。その銃は貴様の命だ。それを落としたり、壊したりしたときは、死んだも同然だ。なぜなら、遠距離武器を持たないPMCなぞ、戦場では絶好のカモだからな」
かつて、自分の師に言われたことを、そのまま。
「はい、わかりました。髄に刻みます」
真剣な表情で向き直り、敬礼をした琥珀。
どうやら伝わってくれたらしい、那月はその敬礼を信じ、同じく、敬礼で返した。
「なあ、琥珀」
敬礼から直った那月は、昔受けた、ある問いを投げかけた
「昔、私の師匠が言っていた問いがあるんだ。まだ私でも解けていない問いがな」
「師匠でも解けない問い、ですか?」
「ああ」
その力の使い道、力の使い方とは何なのだろうか?
そう、これは、過去にとらわれた二人が、最高の師弟となる物語。
否
そう、これは、きっかけを持った二人が、一つの真実を追う物語。
あとがき
みなさんこんばんは、長月零斗です。
Part2~その力の使い道~ご精読有難うございました!いかがでしたでしょうか?今回のテーマは、力と師弟です。
今回は琥珀君と主人公である那月ちゃんの交流を色濃く書いてみました。那月ちゃんの師匠とは、いったいどのような人だったんですかね?後々明らかになりますよ
それでは、今回で回収しきれなかった分は次投稿いたします。次は那月ちゃんの日常生活と非日常生活の違い、そして、彼女がどのような生い立ちで育ったかを一部公開予定です。お楽しみに。
それでは、あとがきはこれで締めたいと思います。また次回お会いできますように
そう、これは、何時か忘れられる物語の歯車。
否
そう、これは、何時か思い出される物語の序動。
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