第41話 図書館ですわ

魔族の街をビビりながら歩くメイと一緒に探索しますが、魔力量は私レベルの人が多いですし、戦闘が出来そうな人は多いですわ。しかし、非戦闘民も多そうですわね。ロウレット帝国は完全に敵対していましたが、オーシェイ連邦より更に西の国には魔族と友好的な国もあるとのことですし、魔族と区別するのではなく普通に一つの強国として見た方が良いですわね。


何故か避けられながら街中を歩いていると、図書館のような建物に着いたので中に入りますわ。魔法学園にも書物は多かったのですが、古い歴史書のような書物は基本的にないのでそういう書物がここにあるのはありがたいですわ。……きっと古い歴史書がなかったのは、蝗害や大火災が多かったせいですわね。


逆にこの図書館は書物に害がないよう、職員の人が魔法で書物を保護していますし、状態の良い歴史書が多いですわ。魔法技術では完全にこちらの方が上ですわね。伊達に魔族と呼ばれていませんし、魔力の豊富な人が多いのは素直に羨ましいですわ。


「ダンジョンの魔族領側の入り口、捜すまでもなく普通に地図に載っていますわね」

「魔族領は南北に細長いと聞いていましたが、その北側ですか……」

「観光しつつ、北に向かいますわよ。

っと、メイは勇者と魔王について書かれた書物を探してくださいまし。私は女神について書かれた書物を探しますわ」


蝗害の被害は魔族領にはなかったのか、食糧事情も悪くはなさそうですわね。というか1人1人が強そうなので蝗害の方が避けるレベルですわね。


しばらく書物を漁っていると、近年は魔族領側の入り口から強い魔物が大量に出て来ており、近隣の村にまで被害が出ていることがわかりますわ。おそらくですが、女神の産んだ魔物でしょうね。その女神は遥か昔に、魔族の英雄ジュディットが封印したようですわ。


……この本の内容は、魔族を殲滅するために女神が降臨し暴れ回り、昔はロウレット帝国やアーセルス王国、オーシェイ連邦も呑みこむほどの強大な帝国だった魔族達が、現在の魔族領となるまで支配領域を大きく削られたそうですわ。その時に女神を封印したのがジュディットという魔族ですので、魔族にとっては救国の英雄というわけですわね。


肝心の封印の内容については詳しく書かれていませんが、どの本にもジュディットが女神を封印したと記載していますし、中には『氷漬けにした』『溶岩溜まりに埋めた』『魔力タンクにした』みたいな色んな記述があるので詳しくは分からないですが、殺してはいないですわね。


どうやらそれなりに古い出来事らしく、曖昧な書き方も多いので詳細は分かりませんが、1つ言えるのは言葉が通じて文字も同じな以上、過去に魔族達がこちら側の大陸も大半を支配していたことは事実でしょう。貴族の階級も同じ形式のようですし……恐らくガルロンは、1回はこの魔族領に来ていますわね。


ついでにメイが持って来た勇者と魔王について書かれた本を読みますが、こちらはありふれたおとぎ話が多いですわ。ただ視点が魔族寄りですわね。かつて世界の人口を半分にまで減らした最悪の魔王が居て、その魔王を勇者が討ち滅ぼし、その勇者を次代の魔王が倒す。その後、この世界はこれを繰り返しているようですわ。


自ら魔王を名乗る辺りは感性の違いですわね……。実際、魔族は魔法の扱いが上手いと自他共に認めるから魔族なわけですし、その魔族達を束ねる王が実力制である以上、魔王を名乗るのは正しい流れですけど。


あとどうやらこの勇者は、封印された元女神が作ったシステムで呼ばれているらしいですわね。10年に一度、大量の魔力を必要とする召喚の儀式を経て勇者は召喚されるようで、勇者がいる時に勇者召喚は出来ないようですわね。何で魔族の方が元帝国貴族の私よりここら辺の情報持っているのかが分からないですわ。


魔王に対抗するために呼ばれるのですから、魔王が強ければ強いほど勇者も強くなるそうですが、今代の紙装甲火力速度特化型勇者を見るに今代の魔王もそこまで強くはなさそうですわね。


この勇者召喚システムについてもう少し調べようとしたところで、図書館に豪華な鎧を着こんだ魔族達の部隊が乗り込んで来て、私を指差すなり「いたぞ!」と叫んでいますわ。……手に持っているのは手配書のようなもので、何故か精巧な私の似顔絵までありますわね。


「頭のおかしいお嬢様、魔王城まで同行願う」

「……もしかして、魔族領で私は有名人ですの?」

「ロウレット帝国への帝都侵攻作戦で次期魔王候補を一方的に弄んだと聞いている。……ご同行いただけますでしょうか?」


私が魔族領に降り立った時、妙に視線が痛かった上に避けられているような感覚だったのはこの手配書のせいですわね。随分と桁数の多い金額までありますし、あの帝都で出会った魔族が次期魔王候補とか聞いていませんわよ。

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