第26話 魔剣回収ですわ

敵の先鋒隊を完全にうち砕いたところで、敵本陣のオーシェイ連邦軍が私達を避けるように、こちらの本陣へ向かって進軍を開始しましたがもう遅いですわね。しかもその途中でロウレット帝国の封臣の1人であるレイナール公爵の軍1500人の横撃が完璧に決まり、足が止まったところでこちらの本陣が敵本陣を捉えましたわ。


先鋒隊同士の戦いで時間がかかっていれば、今日は先鋒隊同士の戦いだけで終わっていたかもしれませんが、決着が早かったのでロウレット帝国もアーセルス王国も今日戦いを終わらせるつもりですわね。当然先鋒隊でほとんど戦闘に参加しなかったロウレット帝国軍5000人も参加しますし、早々にケリが付きそうですわ。


私も参加しますが、足の速い騎士団だけで良いですわね。負傷者や死亡者を除いても、まだ384人もいますわ。


普段から高い給金を払っていますから、戦場では使い潰す勢いで戦いますわよ。それと先ほどの戦いで家宝の旗がなくなってしまったので、いつも持ち歩いている杖を構えますわ。


この世界、殺し合いだと複雑な魔法陣を介して発動する魔法を撃ち合うより、素直でシンプルに強く、感覚で扱える身体強化魔法や身体硬化魔法を魔力のある限り使い続ける方が楽ですわ。魔法での戦闘が弱いわけではありませんし、牽制にはなりますが、決定打にはなりにくいですわね。


「ここに残る兵は敵冒険者部隊の装備の回収をしなさいですわ。残兵の指揮は全てネイキッドに任せますわよ」

「了解。ご命令、承った」


アリー公爵の軍やハロザー公爵の軍は普通にボロッボロですし、重装歩兵団や元騎士団達の伯爵軍も被害は大きいですわ。なのでもう1戦させても無駄死にしかしないでしょうから、騎士団以外の兵はここで死体剥ぎのお時間ですわ。重装歩兵団の団長のネイキッドに指示を出して残るよう命令し、騎士団の陣形を整えますわよ。


……冒険者達が持っていた魔剣は、確かに凄い性能のものも多いのですが、常識の範疇を超えませんわね。1本だけ握ると非常に楽しい気持ちになってくる剣がありましたが、それ以外は特に精神へ影響がありませんわ。


「全軍突撃ですわ!すべて蹴散らしますわよ!」


オーシェイ連邦は精鋭達をアーセルス王国の援軍として送り込んでいるのか、1人1人が頑強な抵抗をしてきますが、こちらの騎士団の方が力量は上なのであまり足を止められずに敵陣の中を斬り込めますわね。あ、これ撤退しますわ。流石に将の位置までは間に合いませんわね。


まあ援軍で来ておいて、一戦も交えずに撤退するのは体裁が悪いから一旦は前進したのでしょう。ロウレット帝国軍との交戦を始めてすぐにオーシェイ連邦軍は撤退を開始していきますが、行先はアーセルス王国の要塞線ですわね。


敵の殿部隊をきっちりと潰した後は、日が暮れて来たので一旦引き返して野営の準備に入りますわ。地味に魔剣が23本も手に入ったのは嬉しいですわよ。まあその大半がただ切れ味の良い剣ですが、褒賞とかでは使えそうですわね。


しかし1本だけ、魔剣『デプハスション』と同様に精神汚染の効果を持つ魔剣があったので、これは本命ですわ。まだ名前は分かりませんが、持ってて楽しくなってくるのは凄いですわよ。あ、これも喜怒哀楽の内、喜怒哀を吸われているような気がしますわ……?


そして両方の魔剣を握った瞬間、感情が壊れたような感覚に襲われ思わず嘔吐してしまいましたわ。私に嘔吐させるとはこの魔剣達優秀ですわよ。食道が胃液で焼かれるこの感覚は懐かしいですわね。懐かしいと同時に、素晴らしいですわね。


2つの魔剣を持って戦うのは、正常な精神だと難しそうですわ。となると、エイブラハムが2本の魔剣を持っているのに使わない理由も分かった気がしますわね。……いえ、この状態で魔族とは戦っていたはずなので、やっぱり分かりませんわ。そもそも出してないだけで持っているような状態ですわよねあれ?


魔剣についての謎が深まったところで、今日は寝ようかと思った時にロウレット帝国の本陣から火の手が上がりますわ。……この国、火計に弱すぎませんこと?即座に消火活動を始めたようですが、夜襲もあり混乱してますわね。下手に動けば同士討ちの可能性もあるので面倒ですわ。というか諸侯の軍の集まり所帯なので同士討ちが起こっている箇所もありますわ。


「フルグレス将軍討ち死に!ロウレット帝国軍は降伏を始めたようです」

「……はあ?」


しばらくするとフルグレス将軍を始めとするロウレット帝国軍の中核を担う幕僚たちが全員斬り伏せられたと連絡が入りましたが信じられませんわね。副将のアンドレが全軍に対して降伏するよう伝達しますけど、そのような指示には従いませんわよ。


「リディア様、よろしいのですか?」

「まだ私達の軍は負けていませんわ。降伏なんてせずにさっさと撤退しますわよ。両隣のレイナール公爵とヘルソン王にも声をかけなさい」

「退路にはアーセルス王国の封臣達の軍とオーシェイ連邦軍の伏兵が集まっているようですが……」

「蹴散らしますわ」


近くで野営していたハロザー公爵を叩き起こしてとっとと撤退の準備を始めますわ。恐らくですが、夜襲の正体はアーセルス王国とオーシェイ連邦の手練れ達数人ですわ。突出した個の武力は単独で使用した方が効果は高いですから、相手は元から緒戦で負けて、油断したところを襲撃する計画だったかもしれませんわね。遠目にはワイバーンが見えますし、こちらの手練れがいなかったのは痛いですわ。

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