第27話 撤退ですわ

ロウレット帝国軍に手練れが少ないことは認識していましたが、夜襲で壊滅するレベルとは思ってなかったので撤退戦を開始しますわ。偽報の可能性は、飛んできたワイバーン兵が幾つかのこちらの気配を消しているので少ないですわね。降伏して連行される誘惑には抗いたくなかったのですが、私だけ降伏して兵達は逃がすという行為は出来ませんので仕方ありませんわ。


ロウレット帝国軍本陣はもう駄目そうなので、とりあえず近場にいた貴族の軍を束ねて撤退を開始しますわ。何故か全員私の言うことを聞いて下さるので、撤退戦の際に問題は起きませんわ。


「リディア様であればこの状況からでも勝てるのではありませんか?」

「この場は勝てますわよ?ですが結局はアーセルス王国軍とオーシェイ連邦軍の大半が撤退して籠る要塞を突破しなければいけませんわ。そしてそれを、ロウレット帝国軍本隊があの無様な有様で出来るわけありませんわ」


若い男性であるレイナール公爵がここからの巻き返しを提案してきますが、これ以上グダグダした戦争に巻き込まれても益は少ないですし、勝ててしまいそうなのが問題なので撤退しますわ。……このレイナール公爵、公爵領を2つ保有していてどちらの公爵領も発展しているのでそこらの王より評判は高いですわよ。


私が野営している場所をピンポイントで狙って、私だけ捕縛されるとかそういう流れだったら最高でしたのにと怒りながら撤退してると追撃の軍が出てきましたわ。しかし殿を務める騎士団が一兵たりとも侵入させないので、緊迫感に欠ける撤退戦ですわね。


ロウレット帝国軍も全体が撤退する流れとなりましたが、被害の兵数自体は相手の方が多いので特に問題ないですわ。こちらの同士討ちがあったのは確かですが、相手にも同士討ちが発生するグダグダっぷりでしたし。


個人的には魔剣という大きな収穫があったので参陣した意味はありましたし、この戦争に勝っても私の領地ではなくロウレット帝国の領地が増えるだけでしたので義理を果たしたらそれで十分ですわよ。


そして何より、軍同士の戦いだとこちらの騎士団の力が強すぎてどう扱っても勝てるのですから敗戦の将になるのが難しいですわ。負けないのに戦に参加する意味なんてないので次回から騎士団はお留守番させておきますわよ!


「うぷ……」

「リディアお嬢様!お止め下さい!」


撤退の最中、ずっと魔剣を両手で握っていると感情が身体の中を駆け巡るような、まるで生きたまま身体の内部を巨大な芋虫が這いずり貪るような感覚を味わえるので何度か吐けましたが、そのうち慣れて来るのはどうしようもありませんわね。何ならその感覚のまま前方から出てきた敵兵を魔剣で輪切りにする作業をしてましたし、慣れれば案外戦えますわ。


『死ぬから!普通は2つの魔剣を持ったら心壊れて死んじゃうから止めて!』


領地に着く前には、新しく手に入れた方の魔剣が喋りかけて来る幻聴まで聞こえたのでこの精神汚染の苦しみは素晴らしいですわね。物が喋りかけてくる幻覚が見えるほど憔悴しきったのは久しぶりですわ。


しかし一晩経っても喋りかけてきて五月蠅いので新しく手に入れた魔剣は地下の倉庫にでも放り込んで、もう片方のだんまりな魔剣だけ帯剣しますわ。こちらはジェネリック絶望を気軽に味わえるので正直言ってお気に入りですの。


「あら、今日は休日でしたの?マキアもマキナも元気でしたか?」

「私達は元気、というか普通だったけど……」

「……マリアの勢いが止まらないから、帰って来るって聞いて報告しに来た」


領地に戻るとマキアとマキナの2人が神妙な面持ちで帰省していたので、学園の様子を確認しつつ、マリアについての報告を受けますわ。私からの献金を有効活用し、孤児を中心に浮浪者までかき集めているマリアは、新しい宗教であるリンリン教を創始したようですわね。


貧困からの脱却をスローガンに、平和と平等を説いているようですわ。思想のありとあらゆる部分が赤いのですが、そもそも宗教名もレー〇ンとスター〇ン辺りから拝借しているでしょうし、いよいよ本格的に動き出していますわね。


共産主義は宗教みたいなものだとよく言われますが、実際に宗教にする辺り、理解している人間の行動は末恐ろしいものがありますわね。そのうちリンリン教の教徒達は平和と平等のために日夜戦いを続けることになるでしょうし、革命はそれまでの統治者の断罪がセットなので非常に楽しみですわ。


あとアーセルス王国への侵攻中に、魔族領へ第一皇女の奪還に向かっていた勇者含むロウレット帝国の手練れ達は無事に皇女を連れ戻せたようなので一先ず国内は落ち着きましたわね。


誘拐した後、牢屋で苗床とかにもせずに監禁とか魔族は何がしたかったのかイマイチ分かりませんわ。人質を盾にした交渉もしに来ていないですし。……色々とチートな存在である勇者が間違えるとは思いませんが、偽物の皇女を掴まされてはいないですわよね?

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