第10話 入学式再開ですわ

「勇者である私の意識を失わせることが出来る悪魔……相当、高位の悪魔でした」


悪魔が去ってしばらくすると、寝ていた生徒達が起きたので檀上にエルシーとかいう女勇者が上がって事情の説明をしましたわ。どうやらあの悪魔は高位の悪魔でとても強いらしいのですが……そのような存在でも脳は鍛えていらっしゃらないとかマジですの?というか相手も抵抗して同じように念波を飛ばしてきましたが、大したことありませんでしたわよ?


あとエイブラハムがきちんと事情を説明しなかったためにあの悪魔が勇者の意識を失わせたことになっていますわね。面白いので放置しておきますが、エイブラハムがやたらとこっちをチラチラと見て来るのははっきり言ってウザいですわ。


『エイブラハム。貴方1人でどうやって悪魔を追い払ったのかさっさと喋りなさいな』

『リディア!?念波を使えるのか……魔力が勿体無いので後で口頭で話す』

『ええ……これほとんど魔力使いませんわよ』

『自魔力小』

『簡略化しないで下さいまし』


この世界にある念波という魔法は、魔力で相手へメッセージを伝達することが出来る便利な魔法ですわ。才能さえあれば、必要以上の魔力を相手脳内に直接叩き込むことも出来ますわ。前にネズミやイノシシで実験した時、あっさりと脳味噌が爆発四散して息絶えたのを見て私はいつか食らいたいと思っていたのですが……。それをしてくる相手は少なそうですわね?


あと何となくですが、エイブラハムが私のことを前世日本人の転生者だと気付いている感じがしますわ。ユースケはもう何か名前からして転生者か転移者だったのですが、エイブラハムもですか。これは操られたムーブが演技だったとバレたら悲惨な目に遭えそうですわね。それはそれで、想像すると身体がゾクゾクしてきましたけど。


……まあ、済んでしまったことは仕方ないですわ。本当の洗脳魔法もどうやらあるみたいですし、親しき者に剣を向けられ滅多刺しにされるシチュエーションを味わえる可能性があるというだけで嬉しくて震えて来ましたわよ。


というか本当に洗脳魔法があるなら洗脳されて親しき者を殺すシチュでも親しき者に殺されるシチュでもどちらでも逝けますわね……ふぅ。


なんかエルシーが「洗脳魔法を使うということは、襲撃者は魔王本人かその血縁者です」というポンコツ推理を披露していたので素直に驚く演技をしてあげましょう。そして帝都を覆う結界が無くなったそうなので、しばらくの間は魔族が入りたい放題好き放題してくる可能性があるようですわ。


……帝都を覆うように存在していた結界の、動力源である宝玉が無くなっていたとのことなので、どうやらあの悪魔はちゃんと目的を果たしたようですわね。この結界自体に悪魔の侵入を防ぐ機能はありませんが、侵入してきた悪魔を捕捉して即座に勇者や高レベルの冒険者達へ侵入者の存在と位置を伝えるそうですわ。


だから悪魔が登場した直後に、勇者も登場したわけですわね。位置捕捉のための結界がしばらく機能しないということは、下手したら帝都陥落の危機でもあるのですが……そうなったら魔族に捕らえられるので万々歳ですわね?


「もうしわけありません、リディア様。悪魔の襲撃に気付けず眠ってしまうなんて……」

「私も眠ってしまったので構いませんわよ。私ですら眠ってしまったのですから、メイが耐えられなかったのは仕方ありませんわ」


メイが凄く申し訳なさそうにしているのを見て、ちょっとばかりここからバレる可能性を考えたのですが杞憂に終わりそうですわね。メイの物理的な耐性は鍛えましたが、魔法への耐性はまだまだですからね。


結界の復旧までには3日ほどかかるとのことなので、それまで帝都に常駐する軍は学園内に入り込み警戒を続けるとのことですわ。この学園内に、結界の起動装置があるから仕方ありませんわね。だから悪魔は入学式という学園中の教師が集まるイベントを利用したわけですか。


「えー、次は在校生代表挨拶。リンデン=ハイン殿、前へ」


悪魔の襲撃というそこそこ大きな事件があったのにも関わらず、入学式は続行されるのは融通が利かない日本のようですわね。今度は例の馬鹿王子が、壇上で挨拶していますわ。リンデンは確か悪魔の襲撃時に1回目の睡眠魔法では耐えていましたが、2回目の睡眠魔法で眠っているので大したことありませんわ。……あの馬鹿王子が在校生代表なところが、この学園の闇ですわね。


その後はトラブルらしいトラブルはなく、入学式を終えたので結界が修復されるまでは自宅or寮で待機という指示が出されますが、教師陣が警戒に駆り出されているので仕方ありませんわ。


……どうせなら制御装置の方をぶっ壊せば良いのに、宝玉だけ持って行ったのはわたくしの指示のせいである可能性がありますわね。まあこの様子なら2回目の襲撃もありそうですし、非常に楽しみですわ。

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