第11話 自己紹介ですわ

「わたくしの名前はリディア=ナロローザ。主に火属性魔法と風属性魔法を使うことが出来ますわ」


入学式が終わってからわずか1時間後。早くも魔族が侵入したとか何とかで教師陣も駆り出されて防衛に当たっているので、自宅待機を命じられた魔法学園の生徒の一部は、学園内の食堂に集まって自己紹介タイムですわ。


なおこの中に人付き合いが苦手そうなエイブラハムはいませんわ。ユースケならいますけど、何故かわたくしがユースケの方を見る度にサッと横を向いて視線を逸らす様は見ていて滑稽ですわ。


今ここにいるのは、学園の寮に入ったお金の無い方々か帝都の中心部にある学園近くの家を買った、もしくは借りたお金持ちしかいませんわね。学園の寮は月額5000クレジットと凄く安いのですが、流石に2人一部屋は狭いですしお断りですわ。


だから、貴族の連中は大体寮に入りませんわね。エイブラハムはどうやら寮のようですけど。……なんで寮住まいなのにこの会合に出て来ないのですか?これだから陰キャはいつの間にか孤立しているのですわよ。


あとユースケは、魔法学園からは離れた土地に一軒家を買っているのでお金は持ってますわね。どこから出てきたお金かは謎ですが、わりとぼったくられているので金銭感覚がガバガバなことは覚えておきましょうか。


新入生達が自己紹介を終えると、今度は上級生も自己紹介していきますわね。その中で気になったのは、馬鹿王子がわたくしの屋敷へ襲撃しに来た時、リンデンの後ろでずっとあわあわしていた少女ですわ。名前はマリアというそうで、苗字がないので平民出身ですが、この世界にマリアという名の女性は沢山いるので後ろに父親の名前をくっつけてマリア=ジェイミと名乗ってますわね。


1つ上なのに、庇護欲を駆り立てるほど背が小さく、胸も小さな茶髪ショートヘア美少女のマリアですが、孤児院出身だそうで今はお世話になった孤児院の経営もしているそうですわ。12歳が孤児院の経営をしてるって、よく考えると凄い世界ですわね。まあわたくしは一応5歳の時から領地経営している立場ですが。


……どうやら昨年、孤児院を経営していた人物が死に、孤児院の取り壊しが決まった時、マリアはリンデンにお願いしてお金を出して貰ったようで、今は寄付金のお蔭で何とか経営出来ているようですわ。あとこの入学料授業料が高い魔法学園に孤児院出身で入学出来ている時点で、特例奨学金が出ている成績優秀な人物ですわ。


「将来は孤児院の経営を安定させて、不幸な子供達を救いたいんです!」


そんな善良そうに見えるマリアは「余裕があれば寄付をお願いします」と頭を下げていますが非常に胡散臭いですわね。男性陣は「協力してやろうぜ」的な雰囲気になっていますが、あれかなり猫被ってますわよ。


そしてマリアが将来の夢を語ったために始まる将来の夢談義。私の夢はもう決まっているのですが、今ここでドン引きされても困るので猫を被りますわ。


「立派な(最悪な)君主(暴君)になって、民に喜ばれる(悲しまれる)統治をし、(処刑されて)史に名前を刻みたいですわ」


途中で本音が出そうになるのをグッと堪えるのは、中々に辛いですわね。あとメイとかマキア、マキナの取り巻き達がキラキラした目で見つめて来るので、ちょっと罪悪感が湧いて来て気持ち良いですわ。破滅の未来を想像する度に胸がキュンキュンして来ますわよ。


私の次に、メイが最強の剣士になる夢を語っていたところで、食堂全体が強く揺れますわ。私の前に置いてあった紅茶とお菓子が零れそうになりますが、マキアが紅茶を、マキナがお菓子をしっかりとキャッチ。……短い時間でしたが、震度5弱ぐらいの揺れはあったような感じはしますわね。


新入生も在校生もほぼ全員、さっきの揺れに騒然となり、恐怖しているようでしたが、ユースケとマリアはあまり怖がっていないので転生者、転移者判定機として地震は優秀ですわね。いや前世日本人だったとしてもさっきの揺れはかなり大きかったので怖がっても良いはずなのですが……。


食堂全体がザワザワと落ち着きのない雰囲気になりましたが、すぐに元軍人現教師のシリル先生が食堂にやって来て「さっきの揺れは勇者の攻撃だ!全員食堂から出ないように!」と叫びましたわ。あの揺れを引き起こせる勇者パワーは凄いですわね。なぜその揺れを引き起こせるような力で私を殴らなかったのか、これが分かりませんわ。


地震を引き起こすような火力なら、歴代随一の火力も嘘じゃなさそうですわね。後頭部を杖で殴っただけで気絶する紙装甲なのは許せませんが。……勇者が洗脳されたら、全力で私を殴ってくれそうですわね。本物の洗脳魔法で、勇者が操られることを祈りましょうか。

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