第4話 追放は一日にして成らず、ですわ

奴隷の少女を虐めて遊んでいたら、クレシアが報告書を持って来ましたわね。どうやら本当に全入学生の情報を調べ上げたらしく、特に貴族の連中はよく調べ上げられているようですわ。正直に言って、有力どころの貴族の息子娘のデータはあまり……。


あら、この子は有力貴族の息子なのに魔法を使えないのですね。これは復讐者の香りがしますわ。こいつは虐めまくって学園から追放しましょう。あと貧乏貴族の七男とか、田舎者の世間知らずもいますわ。こいつら3人が虐めの標的で良いですわね。


逆に仲良くする相手は、性格が悪いと有名な大貴族の跡取り息子で良いですわね。あとは実力が高そうでプライドの高そうな子と優先的に付き合いましょう。復讐されそうな子と一緒にいれば、巻き添えを食らう可能性も上がりますわ。


「メイ、あなたも学園に連れて行きますわよ。

少なくとも学園を卒業するまではわたくしの奴隷ですから、身の回りのお世話をお願いしますわ」

「はい!リディア様!」


奴隷商から僅か100クレジットで買い取れた犬耳尻尾付き犯罪奴隷のメイは、物覚えが良く武芸魔法の才能にも長けているので復讐者にはうってつけですわ。崖下へ100回突き落とした後からは、喜々として命令に従いますし、なんか動きが機敏になりましたわね。もしやわたくしと同じく被虐願望をお持ちで?それは困りますわ。


「リディア様、今月のカジノの経常利益は60億クレジットですか、如何様になさいますか?」

「あら、今月は多いですわね。ではまたカジノエリアの増設をするのと……。

余りで新しい大きなお城を建てて下さいな。この前に建てたバクジット城は……バリジット伯爵へ与えましょう」

「……その新しい城は、どの程度の規模でしょうか?」

「もちろん、バクジット城を超える大きさですわ。お金は幾らでも使って良いですわ」


浮浪者を増やすため、治安悪化させるために建てたカジノは、今や領内でもっとも大きな商業施設エリアへと発展しているのが草ですわね。毎月60億円の資産が入って来るとか、毎月別荘を建てても文句を言われないレベルですわ。


ついでに余ったお城は私腹を肥やす馬鹿貴族にポンとあげますわ。これで逆恨みした他の伯爵の寄子達との仲がギスギスし始めたら個人的には嬉しいですわね。






リディアへの報告を済ませ、新たな指示を受けたクレシアは思案する。リディアが考案したカジノは莫大な利益をもたらしており、近隣の王や地方の貴族達が挙ってお金を落としていく。この世界の通貨の単位はクレジットであり、その名から察せられる通り過去に広大な帝国を建国した転生者が作った通貨だ。


日本円の1円の価値とこの世界の1クレジットはほぼ同じ価値換算であり、1クレジットの石貨から10倍の価値になるごとに小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨と上がって行く。


金貨1枚で100万クレジットとなるが、その金貨の山が毎晩のように動くのがカジノであり、その中の数%が中抜きされ、利益となる。胴元の取り分が少ない分、入場制限がない分、人は多く領内で一番発展している地域と言っても過言ではない。


それと同時に治安悪化も起きてはいるが、領内警備を務めるリディアの使用人達……通称黒服隊が厳しく巡回をして治安を守っていた。


これは追放を沢山したいがために、使用人を追い出した後、リディアが集めた人員でもある。そして成績が悪い者や勤務態度が悪い者から順番に追放され続けた結果、非常に厳格な組織が出来上がっていた。


「リディア様は何と指示を?」

「前の戦争で館が焼け落ちたバリジット伯爵に対し、バクジット城を与え、新たな城を作ると」

「あの巨大な城塞を!?それにまた城を建設するのですか!?

……いえ。アーセルス王国軍が攻めてきた以上、軍備増強に異論はありません。しかし人手が……」

「リディアお嬢様は金に糸目を付けるなと仰っていた。……また領外から人を集めることになるな」


思案するクレシアに駆け寄ったのはクレシアの同僚であり、ハウスキーパーのジョシュア。こちらもまた黒いメイド服に身を包んでいるが、クレシアの顔を隠すような大きい帽子とは対照的に、黒いベレー帽のような帽子が紫髪の上にちょこんと乗っている。


そして複数のネックレスを首や腕に身を纏う様は最早使用人の域を逸脱した贅沢であり、露出の少ない黒服の上からでも分かる豊満な胸の上には、巨大な赤い球状の宝石が乗っている。


リディアの使用人の男女比率はちょうど半々であり、男性の使用人を纏めるのが執事で、女性の使用人を纏めるのがメイド長になる。執事長のクレシアは執事を取り纏める役割であり、ハウスキーパーのジョシュアはメイド長を取り纏める役割。これらの組織図は、リディアが大規模な使用人の追放を行った後、リディア自身が再編して出来たものである。


クレシアはリディアに気に入られて数多の財宝を受け取るジョシュアに対し、良い感情は持っていなかった。リディアが外観だけで意図的に贔屓するだけあって、ジョシュアはかなりの美女である。そしてクレシアから仕事の話を聞いたジョシュアは、すぐに配下へ指示を出す。


例え明らかな贔屓をされていても、女性なのに女性すら魅了する美貌があっても、追放への恐怖心は拭えない。絶対的な独裁者は、時に腐敗を未然に防止する。リディアから広大な城を受け取ったバリジット伯爵は、より一層の忠誠をリディアに誓い、娘2人をリディアの使用人として差し出した。


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