第5話 浮浪者は追放ですわ

リディアの朝は遅い。


夜遅くまで奴隷で抵抗が出来ないメイを性的に虐めたリディアは、ハウスキーパーであるジョシュアに起こされて目を覚ます。寝ぼけまなこを擦りながらリディアはベッドから立ち上がると、そのままジョシュアの胸の谷間に頭を突っ込んだ。ぶっ飛んだ被虐思考を持ち合わせているとはいえ、それとは別にリディアは一般男性的な趣味嗜好も持ち合わせている。


「リディア様、おはようございます」

「おふぁよー、ですわ」


危うくアイデンティティですわを忘れかけたリディアだが、しっかりと付け足して目を覚ます。数人のメイドに取り囲まれ、身支度をした後はリディアのためだけに用意された朝食を摘まむ。軽く数十人分の朝食がテーブルの上にはあるが、リディアの朝食が終わるまで使用人達が朝食を食べることはない。


そして一部の料理は、本当にリディアしか食べないのでリディアのためだけに用意された朝食と言っても良い。


「あ゛ー、この麻痺毒ヤバイですわ。全身がピリピリしますわ。このレベルは久々なので褒めて差し上げますわ」

「……ありがとうございます」


テーブルの上には一皿だけ、紫色のスープがあり、それをリディアは一気に飲む。まごうことなき毒のスープであり、リディアの身体は湯気が出るほど熱せられ、手足を痙攣させる。何故こんなことをするのかと使用人に聞かれることも多いが、その全てでリディアは「趣味」と回答している。


なおこの場合、リディアの言う趣味とは痛みを感じることで性的嗜好を満たすことであり、毒の耐性を身に付ける訓練ではない。しかしながら、使用人視点では毒への耐性を命懸けで上げているとしか思えなかった。


「リディア様、今日は新しい使用人が入ったのですが、連れて来てもよろしいですか?」

「昨日言っていたバリジット伯爵の娘ですわね?

連れてきて下さいな」


朝食を終え、紅茶を飲むリディアの前に案内されたのはバリジット伯爵の娘であり、リディアと同じく魔法学園に入学するマキアとマキナの2人。双子であり、赤髪で姉のマキアと青髪で妹のマキナは、髪色以外瓜二つだった。


「姉のマキアです。これからよろしくお願いいたします」

「……妹のマキナです」

「その髪色、生まれつきですの?」

「いえ、2人とも同じ髪色でしたが、私が赤髪に変えました」


しっかりした言葉で話すマキアとは対照的に、マキナは姉の陰に隠れるように移動し、身を隠す。人見知り気味なマキナだが、誰だって毒入りスープに毒入り紅茶を嗜むヤバイお嬢様と関わり合いたくはないだろう。


マキアが火属性魔法を、マキナが水属性魔法を使えることを聞くと、リディアは2人をお風呂係に任命する。広大な敷地を持つリディアの城には幾つもの広い浴場があるため、人手は常に不足気味だ。


そしてリディアは業務に取り掛かる。と言っても領内政治は一部を除き祖父が代行しており、自身の仕事はクレシアやジョシュアに丸投げしている状況。となれば、リディアがやることは1つ。


「さて、今日も追放していきますわよ」


追放系お嬢様のやることと言えば、もちろん追放である。


領内の浮浪者の追い出しはもちろんのこと、トラブルが多い人物や現行の法では捕まえられない悪人などを自由気ままに追放する。そのため、広い領土のナロローザ公爵領の中でも、リディアの城を中心とした地域は極めて治安が良く、現代日本並みに規律が整っている。


ある程度領内を見て回ったら、今度は凌辱されようとカジノエリアの路地裏等に率先して突っ込んでいくが、裏でコソコソとやり取りをしている者達はリディアの姿を見るなり血相を変えて逃げ出し、誰もリディアに襲い掛からない。


「昔は襲い掛かって来る方もいたのに、今ではすっかりいなくなりましたわね」

「全てリディアお嬢様の統治のお蔭でしょう。民は安心して生活できております」

「……クレシアも、襲いたかったら襲ってくれても良いのですよ?」


ちらりとリディアは後ろを付いて来るクレシアを見るが、クレシアは滅相もないと首を振る。リディアからのパワハラセクハラにはもう慣れており、受け流すことの出来るクレシアは非常に出来た人間だった。


一日中街中を探索し、有り余る金で散財し、たまにいる浮浪者を見つければ追放する。言い方を変えれば、領主自らが領内をパトロールし、経済を回し、不審な人物を領外へ追い出す。


「今日はあまり追放出来る人がいませんでしたわね……」


今日はあまり追放できなかったと残念がるリディアだが、もうすぐで学園に行けることを思い出し、いずれ訪れるだろう破滅のシチュを想い顔を綻ばせる。


それを見て主人以外からの情報収集能力が高いクレシアは、リディアが領内が安定していることに対し安堵していると感じる。


リディアにとって非常に残念なことに、リディアは領民にとってとても良い領主であった。

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