第5話 束の間の日常

「お前はバカか。単位のために単位を落としてどーする」

 なんとか退院、学生なので学業がある。登校して職員室に行くと、いきなり担任から辛辣なお言葉と共に課題の山、と言ってもメモリ1本、を渡される。涙ぐみながら不幸を嘆き、ブツを手でもてあそびながら教室の扉に手をかける。何やら騒がしい。そのまま扉をスライドさせて中に入った途端

―教卓に飛び乗り、弁舌を振るうおよそそうは誰も思わないであろう"委員長"がいた。―

「大体ね!適材適所を実現した人員の割り振り?その為にも子供らには健全に個性豊かに育ってもらおう?キナ臭いのよ!外の景色知ってるでしょう、遊びゴコロのない一律計画都市群!だからね、大人達の言うこと聞いてばっかじゃダメなのよ!つまり!!」

パチン、と指を鳴らし

「そろそろ文化祭よ!メイド喫茶なりなんなりそれっぽいこやりたいわよね!!!!!!」

どーしてそーなる…。だが途中まで呆れ顔だった男共の表情がギュイン!と切り替わる。さすホム!さすホム!と委員長、穂村ユカリの支持率が上がったようだ。さすホムコールをBGMに席へつく。机には

「波田裂!貴様学校をサボってんじゃないわよ!!あんたは買い出しパシリの系に処す予定よ!ホムラ」

とご丁寧に油性マーカーで書かれていた。格好良く活躍…かつ、やく…していたのに心外だな。ガラガラ、ここで担任サマのご登場。

「朝のホームルームはじめるぞー、席につけー。なんだか知らんが嬉しそうに胴上げされてんじゃねぇバカ穂村。貴様だ。んっんー、今日は皆に転校生の紹介だ。入れー」

 音もなく少女が入ってくる。黒髪ショートボブ、丸眼鏡、ウチの学校の制服。ブレザーが恐ろしく似合ってるぜガール。黒板の前に立って丸みがかった小さな字で"風知 流"と書き、ない胸を張り息を吸い込む。やべ、怖い、傷口がうずく、

「か、かざちながるです…これからよろしくお願いします」

…もうツッコまないぞ。挨拶を済ませ担任に促され用意された空席につく。または僕の後ろとも言う。

「(よォダンナ、元気にしてたか?)」

………もうツッコまないぞ。さっさとクラス全員に本性バレてしまえ。

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