第1.5話 ???

「いつまで続けるんです?」

いかにも女教師然とした"担任"と呼ばれる女性は、学研都市の"外"である碁盤の目のように整えられた見渡す限り同じような景色の一角で。

「神の感情を殺してしまった、子供達に善性なる精神を育てさせ、それを献じよう。余りにもバカバカしい。」

暗いビルの一室で、彼女の靴が苛立たしげに床を叩く音が響く。向かいにはさも重役が座ります、と言わんばかりの立派なデスクと椅子。腰掛けているのは頭部を全て包帯で覆った大柄な男。と、彼の頭が少し揺れると同時

「仕方がないだろう。我々は紀元前の罪過を背負っている。子供らは純真で良いな。まったく、君くらいじゃないか?感情豊かなオトナサマはさ。君みたいなのが増えれば良いのに、と言いたいが無理を言っても仕方がない。なんせ神殺し以降の人類なんて箱舟の中の彼らだけなのだからね。だが、彼なら、涙というニンゲンサマの感情が豊かに載せられた代物を操る彼なら。我々の涙も担ってくれるやも、しれぬだろう?」

重苦しい雰囲気に似合わず、包帯男は飄々と肩をすくめて饒舌に―机の両サイドのスピーカーから―声を響かせた。

"担任"は呆れた表情を浮かべ溜息をついて部屋の隅の扉に向かう

「それでは私は失礼します、ホームルームがありますので。せいぜい1人で語っててください」

「辛辣だねぇ…仕方ない、戻ると良い。あぁそう、次の報告は第四学区で。少し用があるので久しぶりに顔を出そうかと思ってね。」

ゴゥン、と音が低く響き床が少し揺れる。いつの間にか2人のいる部屋は学研都市地下へと移動していた。扉を開け、投げやりに"担任"は呟く。

「はいはい、学研都市第一期生サマの仰せのままに。」

遠くから微かに子供達の無邪気な笑い声が聞こえ、彼女は軽く眉をひそめた。

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