第2話 その涙を背負う者

 数時間前。担任から連絡を受けて、"反抗期"、精神の揺らぎにより能力が暴走しがちな生徒、を対処の為探していた時。路地裏でチンピラ2人とゴツいボス的ニキに頭を下げまくっている少女を発見。格好良く助けようと「君たち…」まで言った時点でボスニキからの「失せろ!」の一喝。今は使われていない通称ゴーストグリッド、第四学区まで"ぶっ飛ばされ"ちまった。起き上がって一緒に飛ばされた少女にハンカチを、と思うと同タイミングで起き上がった彼女の携帯が鳴る。メールかな?を確認したガールが薄く笑みを顔に貼り付け、僕を追い始めた。そして先刻に至る…


 横から動きの気配を感じ、座っていたコンクリートの瓦礫から腰を浮かせる。 微笑みガールのお目覚めだ。あくびして出た涙を拭って彼女に

「気分はどうだい?最悪だろうけど。少々手荒だったね、すまない。」

と紳士的モーニングコール。ぱちくり、と可愛らしくまばたきをした彼女は、次の瞬間には笑おうとした。過去形なのは、僕の手の甲から伸びた透明な刃を喉元に突き付けられて動きを止められたからだ。僕の眼前に集い始めていた胸の重くなる"圧"が霧散してゆく。

「知ってるから追っかけてきたんだろ?命令されたのかな。あの"泣き虫"をやっちまえ、ってね。涙と貴婦人の扱いは心得てる、抵抗はオススメしないよ。」

あまりのジェントルメェンな僕に感涙したのか、顔をゆがめて彼女は泣き出してしまった。ありゃ、傷口に塩を塗っちゃったかな。でも大丈夫、"泣き虫"な僕は涙と貴婦人の扱いにはちょっとばかり、手慣れているんだ。

 なーんて格好良く言ったがその後僕のとった行動は大したことじゃない。刃を消して両手を上げて、彼女の境遇を聴いた。どうも彼女、やはり高位の「笑いをトリガーに真空の刃を作り出し、球状に収束、発散させる」"発言者"(抑え込んでから破裂させるのは、彼女の思い詰めた精神も関わっているのだろう)。そしてより高位な「叫べば悪感情の大きさに応じ衝撃波を飛ばす」バケモン"発言者"(威圧的なボスには良くお似合いだ)に、妹を人質に取られ良いように使われている。なんつー気分の悪くなるお話。ほんっと、感情がそのまま威力、チカラになる"発言者"たる青少年ばかりの街なんてどうかしてるよ。

こーんなのが、

―"泣き虫"、涙の理由を背負う者―

たる僕の生活の一端だ。

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