第38話 依頼
「少し待ってもらえませんか」
「もしかして俺に言っている?」
「あなた以外に誰がいるんですか」
首をかしげるアランにワイズンは呆れてしまったようだ
「それで、要件は何?俺、恨みを買うようなことした記憶ないんだけど」
「まだ何も言ってないでしょう。あなたは冒険者ギルドに仮登録をしていますよね?」
「いいえ、していまん。それでは俺はこれで」
「ちょっと待って!」
一刻も早く帰ろうとするアランに、ワイズンは引き止める
「なに?俺は早く帰りたいんだけど」
人の話を聞かないず、自分のことを優先する自己中みたくふるまえば早く帰れるって思ったのに
「私はあなたに依頼があってきたの」
「依頼もなにも、俺は冒険者じゃないから受けられないから話はこれでいいかな」
「最後まで聞いて!」
引き止めるワイズンにアランはこれ以上は時間の無駄と悟り、おとなしく聞くことにした
「依頼内容は」
相手が目上の者であろうと態度を一向に変えず、アランはワイズンと話し続ける
「キマイラを討伐してほしいのです」
予想外な内容にアランは内心動揺するが、表情は変えずポーカーフェイスで接する
「断る。王都には数多くの冒険者がいるのに、わざわざ経験が少なくしかも仮登録の冒険者に依頼する必要がない、それに王都にはAランクの冒険者パーティーもある。それにキマイラを狩れとか俺に死ねと言っているのと同じだってぐらい分かってるだろ?」
冒険者に依頼するってことは、討伐に向かわせた兵士や傭兵は全員死んだか重症を負って帰還したと考えた方がいいか
「分かっています。それに依頼している冒険者はあなただけではありません」
「ということはAやBランクの冒険者は何人かいるってこと?」
「はい、Aランクでは『希望の旋律』と『絶対強者』にBランクでは『鳴音』に依頼を出しています」
『希望の旋律』は王都の冒険者筆頭六人パーティーでバランスが良くどんな依頼をもこなすと有名だ
『絶対強者』も六人パーティーで希望の旋律が全員女性であるのに対し絶対強者は全員男性で回復役なしでガンガン行こうぜの精神で有名だ
『鳴音』は四人パーティで全員エルフという珍しすぎるパーティーだ。男性女性それぞれ二人のパーティーで最短でBランクまで上がったことで有名だ
「他には誰かいるの?」
「あなたをふくめ、これで全員です」
「俺は受けるとは言ってない…ちなみに報酬金額は、最低でも金貨がないと」
「報酬は金貨40枚ですが、足りのならもっと上げましょうか?」
金貨40枚も出るのか、前世でいう320万、心揺らぐけど
「場所はどこ?」
「北の山岳地帯にあるネメシャ村でここから九日ほどかかりますが…授業に遅れることを心配しているのなら私が遅れた分の授業を付きっ切りで教えましょう」
往復十八日となると討伐にかかる時間をなるべく短くして早く帰りたいな
「いつ討伐する予定?」
「二か月後と予定しています」
「二か月後にした理由を聞かせてほしい」
「ネメシャ村へ向かう道中にステュクスという川があるのですが。流れが速く深いためボートを使うしかわたる方法がありません。ですが今は橋の建造中で、二か月後に完成する予定なのです」
「わざわざ橋なんか造らなくてもボートでいいと俺は思うんだけど」
「橋なら馬車が使え多くの荷物が運べるため物流が活発になるのと、北側諸国と戦争になった場合は橋を壊せば足止めができるといった理由です」
本当に俺と同じ九歳なのか、本当は転生者とかじゃないよな…これが知恵のワイズンか、さすが王都三大貴族の筆頭と言われるだけはある。一体どんな努力をすればそこまで考えられるのだろうか
「最後に一つ、なんで俺にも依頼をした?」
「それは、行ってみれば分かるとしか言えません」
まともに答える気はないか…だけどなんだろう。もし断ったらとてつもなく後悔する気がしてならない
「分かった。その依頼、快く引き受けよう」
「ありがとうございます。ギルドに手続きをしなければならないので同伴してほしいのですが」
「分かったよ、一緒に行けばいいんだろ?それと朝学園に来た時にいた護衛はどうしたんだ?」
「でしたらこれを受け取って下さい」
ワイズンはアランの右手にあるものを渡す。それは紛れもない金貨であった
「私を学園から屋敷まで護衛する報酬の前金ですが、どうでしょうか?少ないのならもっと出しますが…」
「いや十分だ。ワイズン様を無事に屋敷まで送り届けよう」
アランの答えにワイズンは「え…」と腑抜けた声を出す
「どうして急に様とお呼びに?」
「今のワイズン様は依頼主だからな、それなりに礼儀をわきまえるつもりだ」
「そう、ですか……」
〇
「無事に手続きも終わったし、あとはワイズン様を送り届けるだけ」
「そうですね…」
ワイズンは昼間の明るい空を立ち尽くしていた
「どうした?疲れているなら休んだほうがいい」
「いえ、大丈夫です。ただ、家族以外の殿方と出かけたことがないので、何というのでしょうか。とてもドキドキするというか…その」
「まあ確かに知らない男と二人で歩くとか警戒して当然だしな」
「あの、そういうわけではなくて…その」
「静かに」
何か言おうとするワイズンに人差し指を立てる
「やっぱり感知がじゃないらしい、学園からずっと俺たちをつけてるやつがいる。二人とも女性だな」
「そこまで分かるものなのですか?」
「意外とな、それより、俺たちが急に足を止めたことで、なんか警戒された。ワイズン様、何事もなかったかのように屋敷へ歩いてください」
「え、あ、はい…」
急に言葉使いが変わることに驚きつつもワイズンが再び歩き、アランもワイズンから少し後ろので歩く
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