第33話 マーリン

 俺は部屋で着替えてから、ヅェディに昼前に帰ると伝えて寮へ出た


「あのなあ学生さん、前に言っただろ…今は寮から出るなって」


 俺はヅェディから正門を使うようにとしつこく言われたため、今こうしてあの時あった警備兵のおっさんに会っているが…呆れた顔をされている


「いいだろ、ほら今の俺にはこれがある!」


 俺は堂々と外出許可証を警備兵に突き出す


「おお…マジか、あの学園長に許可を出させるとは、なら…よし通っていいぞ」


「前みたいに門を開けてほしんだけど」


 俺は道を譲った警備兵に頼む


「お前まさか外出許可証を持って近づけば門が勝手に開くことを知らないのか」


「え、そうなの?」


 俺は試しに近づくとマジで勝手に開いた。まさか異世界に自動ドアがあるとは…


「おースゲェ」


「感想言ってないで大切な外出時間が減っちまうぞ、早くしろ」


 警備兵は立ったままの俺の背中を押して学園外へ出す

 俺は押されるがまま知恵の間へ向かった

 

 警備兵は中欧方面へ向かうアランの後ろ姿を見送った


「マーリン様、対象が学園外へ出ました」


 警備兵は赤い水晶板を取り出し、その魔道具を使用し念話で外部へ連絡する


「どこに行ったか分かるかい?」


 マーリンと呼ばれた男は警備兵に問いかける


「はい、方角やこの先の道から王都有数の図書館である。知恵の間かと思われます」


 いつもでは決してみられない真剣な表情で警備兵は答える


「おそらくだが、彼が僕が造った空間魔術を破壊したのだろう。もしラプラスが言っていたことが事実であれば、彼はアーサー王の脅威になる」


「ラプラスというと、帝国の大賢者ですね。確か報告によれば未来視の魔法が扱えると存じておりますが」


 ラプラス、帝国の大賢者であり未来視の固有魔法が扱える事物であり、この世界で指折りの実力者である。


「ああ、彼によれば十年後にその少年が帝国を滅ぼす未来だったらいいが、その前に僕たちが帝国を支配下に置いた。彼の未来視は必中と言われているのが外れたとなると、少年はかなり異質の存在なのだろう」


「異質…ですか。私はそうは観えませんでしたが、それに十年後に滅びるのは支配された後の帝国という可能性があります」


 まさしく私の目には、他の者より才能がある少年にしか見えないが


「僕の空間魔術もとい魔法はそれ相応の魔力を持った者にしか発動しないように造った特別な魔法だ。そうやすやすと壊れるものじゃない、ましてやあれは捕獲用だ。せっかく捕まえた獲物を逃がさないように複雑な術式にしたのに、まさかこうも短期間のうち破壊されるとはね」


 マーリンはため息をつく、それほど彼にとっては自信作だったのだろう。それをこうもあっさりと破られ、その破った者はSランク冒険者の魔法使いでもなく、王国の宮廷魔法使いでもない、辺境から来た子供なのだから


「ラベル、君が言うには少年は知恵の間へ向かったんだね」


「はい、おそらくはと思いますが。まさかかつての友人の言葉が信用できないと」


「まさか信用しているし信頼しているさ、ただ確認だよ。か・く・に・ん」


 ラベルはたま~にこういうことをしてくるからな、仕事支障が出ていないか心配になってくる。それよりもまだ様付けなのが気になるな


「それで、マーリン様はいったい何をするおつもりで」


「いや、もしよければ確か…えっと、アランだっけ、彼を弟子にできないかなって

思っているだけだよ」


「弟子にするなら私にください。彼は入学試験のとき苦戦していたとはいえ試験官に勝利しています。間合いを詰められ魔法が使えないときは支給されていた木剣で見事な剣術で応戦しました。あれほどの戦いぶりを見たのは久ぶりですので、私も欲しいところです」


 今も思い返すと試験官に攻められ劣勢の中でもまるで確実に仕留めることを前提にした立ち回り、本当に素晴らしいものだ。わざわざ非番のやつに仕事押し付けて観たかいがあった


「マーリン様は王国の国民をキャメロットに拉致し、一体何をなされているのでしょうか?」


「これといったことはしてないよ、ただ王国の情報をゲロしてもらって、あとは記憶を消して留置所に寝たきりにさせている。なにも殺す気はないさ、それにそろそろ潮時だと思うし、王国に転移させて返すつもりだよ」


「魔力の波長により逆探知される恐れがありますが、いかがなさいましょう」


「その心配はいらないよ、王国の地下には何がある…いや、正しくはのか知らないが、その何かが出す魔力の波長と重なり合って問題ないさ」


 そこまで言うのならば問題ないのだろう。あとは


「あの少年、アランをどうやって拉致するおつもりで、彼は常に魔力探知を行っているため潜伏してもすぐに気づかれるかと、それに騎士団も行方不明事件で警戒しているため隙はないかと」


「カオス教団を知っているだろう」


「はい、世界各地に拠点を持つカルト教団で三人の司教が統治しており入信者も全員狂人しかいないと聞いております」


「そのカオス教団が近々なにか騒動を起こすらしい、その混乱に紛れて拉致しよ。と考えている」


 混乱に紛れて行動する。シンプルだが一番バレにくく矛先も騒ぎを起こした者に向き、我々は疑われにくい


「拉致するためでないなら、なぜアランが居場所を聞いたのですか?」


 まだ行動を起こさないなら聞いたとしても意味がない


「いや、僕の目で直接見てみようと思ってね」


「見てみるって…まさかマーリン様また公務から逃げて」


 クソ、切られた。あの人またさぼったな。はぁ…いい加減キャメロットの重鎮だという自覚を持ってほしい





 






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