第9話 第一話「夢か現か幻か……」 南洋の島
「……みすず。なんだかぼーっとしてるけど?」
午後の授業が終わった休み時間。
後ろの席から園絵が私に声をかけてきた。
「……あ、……うん」
私は昼休みに見た夢を思い出していたのだ。
あのときクラスのみんなはなにかにとりつかれたかのように熟睡していた。クラス中、机に突っ伏して熟睡していたのだ。
だけど、現実にはみんな起きていて、午後の古文の授業を受けたのだ。
……そして夢に現れた謎の男の子。
あの人は夢の内容がすべてお見通しみたいだった。
「……鬼平くんか」
「誰、それ?」
私のひとり言に園絵が反応した。
私はあわてて取り繕う。
「ううん。……なんでもない。ただ夢を見てただけ」
「また昼休みに昼寝してたの?」
「うん、屋上でね。……そしたら知らない男子が現れたのよ」
「男子? ……へえ、それって未来の彼氏じゃない?」
なぜだか真っ赤になっていた。
「や、止めてよ。だって全然知らない人だったんだよ」
「ふーん。……で、どんな夢だったの?」
園絵はなぜだか意味深な顔をする。
「うん。クラスのみんなが眠っていた夢」
「なにそれ?」
「うん。私が知らない男の人と教室に来たら、園絵も瞬くんもみんな熟睡してたのよ」
「ふーん。変な夢だね」
「うん。……まあ、夢だからね」
私はそう言った。そしてそれは本心だった。
夢であればなんでもあり得る。だから夢の内容に意味なんてある訳ないと思っていたからだ。
「でも、それ御利益あったかも」
園絵がいたずらっぽく笑った。
「どうして?」
「うん。だって午後になってから、私、全然眠くないもん。
ふつうお腹がいっぱいになったら眠くなるじゃない? なのに、全然平気」
「そう言えば、あくびしてないね」
私は辺りを見回した。
だけどただのひとりもあくびをしている人はいなかったのだ。お弁当の時間にあれだけ蔓延していたあくびがなくなっているのだ。
「きっと、みすずが夢に見てくれたからよ。みんな一眠りした気分になったんじゃない?」
「だとしたら、いいんだけどね」
そんなこんなでその日は終わった。
■
私は帰宅した。
私は部活には入っていないので、午後五時前には自宅に帰って来ていた。
そして夕食前には勉強を始めていた。内容は明日に小テストがある地理だった。
「へえ、……きれい」
私は地理の教科書に載っている一枚の写真に目を奪われた。
見ると太平洋諸国の写真として小山が二つあり、そこに三本のヤシの木が生えているきれいな島の写真があったのだ。
そこはエメラルドグリーンに透き通る海と真っ青な空、そして白い雲が写っていて、まさに南洋のパラダイスだと思った。
「パラオ共和国……」
写真の説明にはそう書かれてあった。私はそれがどこにある国かもわからない。
――気がつけば、私は南の島にいた。また眠ってしまったらしい。
目を開けたら真っ白なビーチに横たわっていて、見上げると三本のヤシの木が青い空を背景に立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます