第8話 第一話「夢か現か幻か……」 二年一組

 

「なにを調べるの?」




「誰かの夢に僕のような体質の人間が現れたってことは、必ず意味があるんだよ」




「意味?」




「うん、この夢を見させている原因」




「原因? 夢に原因なんてあるの?」




「あるんだ。共用する夢には絶対に夢主ゆめぬしがいるんだ」




「ゆめぬし? ……それって夢を見ている人のこと?」




「うん。そして夢は時と場合によってなんだけど、夢主は『ぬえ』を呼び出すことが多いんだ」




「ぬえ? なにそれ?」




「妖怪の名前。聞いたことくらいあるでしょ?」




「……あ」




 そう言われて思い出した。

 『鵺』とは確か平安時代に都に夜な夜な現れたと言う妖怪で、ヒョーヒョーと鳴くらしい。そして時の帝が重い病にかかってしまって、偉いお侍さんが退治したとか言う物語だったはずだ。




「この夢はみすずさんの夢なのだから、夢主も『鵺』もみすずさんになるんだ」




「ええっ! 私は妖怪なの?」




 ショックを受けた。

 私は今朝、東田産婦人科医院で先生から改造人間だと説明された。

 脳に人工細胞を植え付けられたと聞かされたのだ。だから、鬼平くんは私が人外の存在だと言うのだろうか?




 だけど私がそう考えたことは鬼平くんにはわかっているみたいだった。




「ええっと……、違うよ。なんて言ったらいいんだろう……」




 そして鬼平くんは少し考え顔になる。

 だけど少し待っていたら、ぽつぽつと話し始めてくれた。




「別にみすずさん自身が妖怪だと言ってんじゃないんだ。

 ……誰かと共用する夢を見させている夢主が『鵺』なんだ。『鵺』は夢を見ている本人、もしくはその思いが具現化したものなんだよ。

 ……そしてね、みすずさんがこの学校を舞台にした夢を見ていると言うことは、ここでなにかが起きるはずなんだ」




「……」




 鬼平くんはそう言いながら、階段をどんどん降りて行く。




「……私の夢って言うことは、私のクラスに行ってみる?」




 私はそう提案して鬼平くんを追い越した。

 なにか不安を感じたからだ。そして二年一組へと案内したのだ。




「……っ!」




 教室のドアをがらりと開けたとき、絶句した。




 クラスメートたちはいた。……だけど全員机に突っ伏していたのだ。




「……な、なにが起こったの?」




「……それは僕もわからない」




 鬼平くんはそう言ってすたすたと教室の中を歩く。

 そしてひとりひとりを調べ始めたのだ。




「寝ているね」




「み、みんな寝ているだけなの?」




「うん。寝息を立てて静かに眠っている」




 言われて私も確認してみた。

 確かに園絵や瞬くんも気持ちよさそうに寝ていた。




「なにが原因なんだろう?」




「それは僕も知りたい。……なにか、みすずさんに思い当たることはない?」




 言われて私は考える。

 これは私の見ている夢なのだから、私がなぜこの夢を見たのか原因があるはずだからだ。




「あ、そう言えば……」




「思い出した?」




「うん。……クラスのみんなが最近寝不足なんだって。みんなあくびばかりしてた」




 すると鬼平くんは腕組みして納得顔になる。




「なるほどね。

 ……みすずさんがみんなを寝かしてあげたいと思ったから、こういう夢を見たんだろうね」




「そ、そうなの?」




「うん。だってそう思ったんじゃないの?」




「う、うん」




 言われてみればそんな気がしてきた。

 私は確かに園絵や瞬くんを寝かせてあげたいと願ったような気がする。




「でも、……悪夢じゃなくて幸いだね」




「悪夢?」




「うん。火事や事故を起こしたり、人を殺したいとかの夢を見るよりよっぽどいいよ」




「……そ、そうだね」




 そのときだった。

 どこか遠くから、なにかの音が聞こえてきたのだ。私は耳を澄ます。




 ――昼休み終了のチャイムだった。




 そこで目が覚めた。

 見ると、周りはもちろん屋上で私はベンチに横になっていた。

 そして辺りをうかがうけれど、鬼平と名乗った男子の姿はもちろんなかった。




「……鬼平くんか」




 私はリアルでいて、だけど見知らぬ人のことを考えていた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る