第7話 第一話「夢か現か幻か……」 夢の中
「そう。これはみすずさんの夢なんだ」
「私の夢? ……夢だとしたら、私はこのベンチで昼寝中だよ」
「僕も自分の学校の教室でうたた寝していたんだ。そして夢を見始めたらここにいた」
「……そ、そうなんだ」
私はそのことが別に変だとは思わない。
夢の始まりはいつも突然思いがけない場所に出現していることが多いからだ。
それは例えば海辺だったり、飛行機の中だったり、遠い外国の街だったりすることもある。だから学校の屋上であってもそれは不思議じゃない。
でも、夢を見ている最中に、自分も夢を見ていると言い出す人に会うのは初めてだった。
「まるで同じ夢を見ているみたいだね」
「うん、そうだよね。僕とみすずさんはひとつの夢の中に今いるんだ」
「ええっ!」
信じられなかった。
夢と言うのは個人個人が勝手に見るものであって、誰かと共用するものじゃないからだ。
だけと目の前のこの人は私と同じ夢の中にいるの言うのだ。
「これは私が見ている夢なの?」
「うん、みずずさんの夢なんだ。
……そうだな。みすずさんの夢と言うネットワークゲームに僕がログインしてしまったと思えばいいんじゃないのかな?」
「う、うん?」
私はなんとなく納得した。
この夢は私の夢だと言う。でも、そのときはそういう設定の夢を見ているだけだと思っていた。私の夢の中に見知らぬ男子生徒が勝手に現れて、勝手になにかを話していると思っていたのだ。
「すると調査してみる価値はありそうだね」
鬼平くんはそう言って私を校舎の中へと連れて行こうと手招きをする。
「ねえ、あなたは実在するの?」
「実在って?」
「だって夢なんでしょ? ……目が覚めたらおしまいなんだし、ちょっと気になる」
私は鬼平くんにそう答えた。
そして同時に不思議な気分も味わっていた。この人とは出会った記憶がないからだ。
「ひょっとして僕のことが気になるの?」
「うん。……どこかで会ったことある?」
「みすずさんと?」
「そう」
「まず間違いなく初対面だろうね。残念だけど僕はみすずさんを知らない」
「ええっ?」
人は夢を見るとき、誰かと出会うことがある。それは家族だったり、友人だったりすることが多い。
でもたまに見知らぬ人と話をすることがある。今の場合がそうだ。
――私はこの男の子を知らない。そしてこの人も私と初対面だと言う。
「で、でも……。どっかで出会ったことがあるんじゃない?
だって夢の中で会う人は過去にどこかで必ず一度は出会った人だと言うよ」
夢の中で見知らぬ人と出会っても、それはいつかの過去のある日に会っていると言うことを聞く。
それは、ただ道ですれ違っただけの人である場合もある。遠いある日に一瞬だけ遭遇した名前も知らない存在……。
でもそれが記憶の引き出しの奥にしまってあって、夢の中にだけ、ふっと現れることがあると言うのだ。そしてこの鬼平くんもそのひとりだと思ったのだった。
「……まあ、ふつうはそうだろうね。
だけど僕は本当にみすずさんを知らない。そしてみすずさんも僕とは出会ったことがないはずなんだ」
「……で、でもこれは夢なんでしょ?」
「うん、間違いなく夢の中なんだ」
「でも私、よく夢は見るけど、こんなにリアルな夢は初めてだよ」
「……そうか。じゃあ、みすずさんは術後十年経過したばかりなんだね」
「ええっ! 私のこと知ってるの?」
私は驚いた。
私が頭の手術をして十年経ったことを知っているのにびっくりしたのだ。
「いや、知らない。だけどそうじゃないと説明がつかないんだ」
「ふーん」
完全に納得した訳じゃなかった。
だけどこれは私の見ている夢なのだ。
だから、どうして? とか、なぜ? とかの疑問は意味がないと思ったのだ。
「さて、じゃあ校舎の中を調査しようと思うんだ」
鬼平くんは私の疑問など一切お構いなく校舎の中へとすたすた歩いて行く。
仕方なく後を追うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます