第5話 第一話「夢か現か幻か……」 遅刻

 学校には午前中のうちに着いた。

 到着したときは数学の授業中だった。




「遅れてすみません」




 私は教室のドアのところで数学の佐々木ささき先生にそう謝って、静かに自分の席に着いた。そして教科書とノートを広げたのである。




「みすず、風邪は大丈夫なの?」




 後ろの席から園絵そのえが小声で尋ねてきた。

 小泉こいずみ園絵は中学三年生のときからいっしょで、高校も同じこの都立大沼東おおぬまひがし高校を受験した。

 そして一年生のときも同じクラスだったので、とても仲がいい。




 つまり親友だ。

 さらっさらの髪を腰まで伸ばしたちょっとした美少女である。




「うん。たいしたことはないって」




「そっか。良かったね」




「うん」




 私は嘘をついたので、心がちょっとちくりとした。

 でも正直に産婦人科に行ったなんて言えないので仕方ないと思った。




 そして昼休みになった。

 私は園絵と松田まつだしゅんくんと昼食を食べることが多い。

 瞬くんは園絵の彼氏でさっぱりとした性格の背の高い生徒会委員だ。




 私と園絵は席が前後なので、隣の空席になっている平沼ひらぬまさんの机を瞬くんは運んで隣り合わせにした。平沼有紀ゆきさんはクラストップの成績を誇る優等生だけど、今は重い病気で先月から入院しているのだ。




 そして三人でお弁当を食べ始めた。




「浅井、風邪は大丈夫なのか?」




 瞬くんもそう尋ねてきた。




「うん。今朝、ちょっと熱っぽかったから、両親がお医者さんに行って診てもらった方がいいって言うから、行ってみただけなの」




 そう答えた。

 瞬くんも私が今まで無遅刻無欠席だったことから心配してくれたようだ。




「……ふああっ」




  突然、園絵があくびした。

 すると瞬くんにも伝染したみたいで、大きく口を開けている。




「どうしたの?」




 ふたりに尋ねた。




「うん。……最近ちょっと寝不足気味なの」




 そう園絵が答えたのだ。




「夜遅くまでSNSとかゲームとか?」




 質問すると園絵は首を横に振る。




「ううん。

 ……なんて言うのかな? 寝ているんだけど眠ってないって言うか。……変な夢を見るのよね」




「俺もだ。

 ……寝てもなんだか嫌な夢ばかり見ちまって、すぐに目が覚める。そしてなかなか寝付けない」




 瞬くんもそう答えたのだ。




 するとその会話を聞きつけたのか、近くにいたクラスメートたちも、同じだと言うのであった。

 みんな寝不足を訴えて、あくびを繰り返している。




「嫌な夢? どんな夢なの?」




 園絵と瞬くんに尋ねてみる。




「えーと。……ごめん。憶えてない」




「ああ。嫌な夢だとだけはわかるんだけど、目が覚めるとすっかり忘れてるんだ」




 そう言うのだ。

 私は昨晩もぐっすり眠ってしまったので、ちょっと気の毒だけど他人事だと思ったのだ。



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