第4話 第一話「夢か現か幻か……」 バイオサイボーグ

 

「ええ。ふつうの人は夢に色がないの。昔の映画の白黒フィルムのようにね。

 ……でもね、あなたの場合はカラー映画のように色がついている。そしてそれだけじゃなくて、音も臭いも手触りも感じているはずよ」




「ええっ! じゃ、じゃあ私が見る夢は他の人と違うんですか?」




「そうよ。だから他人よりも強烈に夢の記憶が残るの。

 ふつうの人は寝ているときに夢を見ても、そのほとんどは目が覚めたときに忘れてしまうの。

 例え憶えていても、断片的にしか思い出せないし、夢の中のストーリーがつじつまが合わないものになってしまうのよ」




 そう言って東田先生は笑顔を見せた。




「わ、私の両親は私が改造人間だと言ってました……」




「そうね。ある意味、それは正しいわ。脳の一部に人工的に作られたものが入っているから。

 でもそれは機械じゃなくて、生体的な部品を使っているのでバイオサイボーグと言うのが正しいの」




「ええっ……」




 私はかなりの衝撃を受けた。

 それはもしかしたら重い病気を告知された人と同じくらいショックだったと思う。




「でもね、別に心配することはないわ。あなたはふつうの人と同じように健康なのよ。

 だから全然気にすることはないのよ」




 そう先生は優しく諭してくれたのだ。




「じゃ、じゃあなにも心配しなくて平気なんですね?」




「ええ、そうよ。……でも、ひとつ気をつけて欲しいことがあるの。

 これはあなたのために絶対に守った方がいいわ」




「なにを気をつけるんですか?」




 覚悟をしていた。

 なにか日常生活の中で決してやってはいけない禁止事項が言い渡されると思ったからだ。




 だけど、先生が言う気をつけることとは、たいしたものじゃなかった。




「本や漫画を見てもいいわ。そして映画やゲームも構わない。

 ……でもね、できるだけバッドエンドな物語は見ないこと、そして想像しないことね」




 ぽかんとした。

 なんだかあっけないことだと思ったからだ。




「つ、つまりハッピーエンドなら、いいんですか?」




「ええ、そうね。あなたの場合、夢がリアルに感じられるから、あんまり衝撃的な内容の物語は悪夢になってうなされるからよ」




 そう笑顔で答えてくれたのだ。




 私は安心した。元々、後味の悪い物語は好きじゃなくて、最後は必ずハッピーに終わる話が好きだ。 

 もちろん劇中は、はらはらどきどきするけれど、最後には正義は必ず勝ったり、恋愛は必ず成就するものが好みなのだ。




「な、なら大丈夫です」




 そう東田先生に答えた。

 すると先生は私を椅子から立ち上がらせて、元の産婦人科の診察室へと案内した。




「じゃあ、今日はこれでおしまい。術後の経過は良好だから、お薬も特にいらないし、後は定期的に来院してくれるだけでいいわ」




 こうして私は診察を終えた。なんだか肩の荷が下りたみたいに、身体が軽く感じられる。そして気持ちも高らかになって、高校へと向かったのである。




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