第3話 第一話「夢か現か幻か……」 診察
「私が昔、専門にしていたのは脳の治療じゃなかったの。
……あ、もちろん脳外科医だから、脳の治療はしたわよ。でも本当の担当は脳の欠損部分の再生技術。
……痛んだ部分を取り除いて、新たに人の手によって作られた脳細胞を埋め込むことだったのよ」
「……脳細胞を埋め込む?」
理解の外だった。
私はふつうの高校二年生で、医学のことは全然わからない。だけどそんな私でも、脳細胞を埋め込む治療があるなんて聞いたことはなかったからだ。
「そ、それって……。なんなんですか?」
思わず尋ねていた。
すると東田先生は私を診察室の奥へと案内した。そこにはドアがあり、開けると中には大がかりな装置が置かれてあったのである。
そこには大きな椅子もあって、その背後には洋服ダンスを三つほど並べたような大きな機械が置かれてあった。
それらはみんなたくさんのケーブルにつながれていて、低いぶーんとした音をたてている。私はそれが治療用の機械ではなくて、なにかの実験装置にしか見えなかった。
ここは本当に産婦人科なんだろうか? 疑問がわいてきた。
「そこに座って」
東田先生がそう告げた。
私は戸惑いながらも椅子に腰掛けた。すると先生は銀色ににぶく光るヘルメットを持ってきて、それの頭頂部にある長いケーブルを低い音を出し続けている大きな機械のプラグへと接続したのである。
「こ、これはなんなんですか?」
東田先生が私にヘルメットを被せたときである。怖くなってそう尋ねていた。
「今から検査を行うわ」
「……な、なにをするんですか?」
「大丈夫。痛くないから」
東田先生は私の問いには答えずに、ヘルメットをぽんと叩く。
そして機械のスイッチが入れられたようで、ヘルメットの内部がまぶしく光り出す。
思わず目をつぶる。
「……んんっ」
私は小さく悲鳴を上げた。
なにか頭の中を探られるような錯覚を感じたのだ。
東田先生は機械に取り付けられたモニター画面をじっと見つめている。
「あら、問題ないみたいね。大丈夫、まったく後遺症は見られないみたいね」
そう先生は言って、私の頭からヘルメットを外したのだ。
「こ、これはなんの検査だったんですか?」
「脳波よ。
手術の結果を確認したの。あなたは小さいときに手術を受けたのは聞いているでしょう? その影響を調べたの」
「……私の両親は、確か私に夢をよく見るか、と聞きました」
「ええ、そうよ。
あなたの手術の結果、夢に副作用が出ることがわかっているからなの。
それが強く出るのが術後だいたい十年くらい経過したとき、……つまり今のあなたね」
先生はそう説明してくれた。だから両親は、私が十七歳を迎えた今日に診察を受けるようにと言ったのだろう。
「夢に副作用? そ、それってなんなんです?」
「他の人よりも、よりリアルな夢を見るって言えばわかりやすいかしら? あなたの夢には色がついているでしょう?」
「色?」
私はなんのことかわからなくて、そう尋ねていた。
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