第2話 第一話「夢か現か幻か……」 東田産婦人科医院
その日は朝から快晴だった。
季節はまだ夏の余韻が残っている九月の中旬で、さすがにセミの声はしなくなっていたけれど、気温はまだまだ秋とは言えない暑さだった。私は額に汗を浮かべながら高台に建つ医院へと目指したのである。
午前九時。
私は東田産婦人科医院の扉を開いた。
そして受付でお父さんから渡された名刺を見せて、先生の診断をお願いしたのである。
東田産婦人科医院は個人医院で、平屋のあまり大きくない作りで、それほど広くない待合室には、すでに診察の順番を待っている人たちが数人いた。
私はその人たちと目が合うと、真っ赤になってうつむいてしまって、隅っこのベンチにひっそりと腰掛けた。
その待合室にいるのはお腹が大きくなった妊婦さんばかりだったからだ。
(……恥ずかしいな)
きっとここにいる妊婦さんたちに、私のことを未婚の若い母親になる患者だと思っているに違いない……。
その視線が痛かったので、見たくもない女性週刊誌を手に取って、読みたくもない芸能人のゴシップ記事に目を通していたのである。
そしてしばらくしたときだった。
「
私を呼ぶ声がした。診察の順番が回ってきたのである。
「はい」
そして妊婦さんたちの視線を気にしながら小声で返事をして、診察室の扉を開けたのであった。
――驚いた。
まだ若い女性の看護師さんに案内されて、先生と向き合って座ったときに、絶句してしまったのである。
それは今朝、夢に見た美人の中年の女医さんだったのだ。
「どうしたの? 私の顔に見覚えがあるのかしら?」
東田先生はそう私に尋ねた。
「えっ。……な、なんでもないです」
そう答えるしかなかった。今朝、夢で見た顔とまったく同じだなんて言えなかったからだ。
「私の顔を覚えている訳はないわよね。……だって、あなたが私と会うのは十年ぶりだもの。だとしたら予知夢ね?」
「な、なんでわかったんですか?」
思わず尋ねてしまっていた。すると東田先生はにっこりと笑顔を見せた。
「それが、みすずさんが今日診察に来た目的だからよ」
そう言ったのである。
「えっ? でもここは産婦人科じゃないんですか?」
驚いて、そう質問していた。
「ええ、そうよ。……でも、私は、元々は脳外科担当だったのよ」
「……脳外科?」
すると先生は説明してくれた。
東田先生は五年前まで先端医療で有名な大きな大学病院の脳外科医だったと言うのだ。
だけど訳あって、そこを辞めて産婦人科の開業医になったのだと説明されたのだ。
頭の中は謎だらけだった。
第一に、なぜ今日この産婦人科に来なければならないのかわからなかったし、第二に、なぜこの先生が過去の経歴を私に話す必要があるのか不明だったからだ。
だけど、東田先生はそんな疑問が手に取るようにわかったようで、ゆっくりと順序立てて説明してくれたのである。
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