夢見るように夢見たい
鬼居かます
第1話 序章 私は夢見るサイボーグらしい……。
序章
私は夢見る改造人間である……、らしい。
そのことを聞かされたのは、翌日は誕生日を向かえる十六歳の最後の夜だった。
私は夕食を終えて自室へ戻ろうとした。明日、月曜日提出の宿題もあったからだ。
「みすず、ちょっと話がある」
そう、お父さんに呼ばれてリビングのソファに座らされたのだ。
そこにはお母さんもいて、なにやら真剣な顔つきでいたのであった。
「な、なに?」
私はそのとき、なにか呼び出されることに覚えはなかった。
別に夜遅く帰宅することもなかったし、学校だって無遅刻無欠席だったし、成績は……。
まあ、それなりだったから。
「お前について話がある。お前は昔、交通事故に遭ったのを憶えているか?」
「う、うん。憶えてる」
私はうなずいた。
私は小学校一年生のときに交通事故に遭ったのだ。そのときお父さんが運転していて、お母さんが助手席に乗っていて、私は後部座席にいた。
そこへ信号無視の大型トレーラーがぶつかって来た。
車は車体後部に激突して、私は大怪我をしたのだ。
「そのとき、お前は二ヶ月近く入院したのよ」
お母さんがそう言う。
私はうなずくけど、なぜ今、その話を持ち出してきたかわからない。
私は確かに怪我をした。今は髪の毛で隠されて見えないけれど、頭に大きな縫い跡が残っている。
だけど特に頭痛やめまいと言った後遺症も残っていないし、私自身もそれから事故のトラウマに悩まされることもなかったからだ。
「でも、今更どうしてそんなこと訊くの?」
私が尋ねると、お父さんとお母さんは黙り込んだ。私は仕方なく、しばらく待つ。するとお父さんが覚悟を決めたかのように重々しく口を開いたのだ。
「お前は夢をよく見るか?」
突然に、そう質問されたのである。
「えっ? 見るよ」
私はなんのことだかわからないけど、そう答える。
変な特技だけど、私は寝るのが得意だ。
すぐに眠りにつけるのである。
そして私は寝ているときによく夢を見た。
それは空が飛べたり、スパイみたいに誰かを追跡したりと言った実生活とは関係ない他愛のないもので、映画を見たり小説を読んだりした後に、その影響を受けたものばかりだった。
夢の中の私はそれらの物語に感化されたからなのか、主人公になりきっていてストーリー通りの話の中で大活躍をすることが多いのだ。
「その、夢が問題らしいのよ」
お母さんがそう言う。私にはいよいよ両親がなにを言いたいのか、わからなくなった。
「ねえ、私が夢を見ることが、なにか問題なのっ?」
たまらなくなって、つい、強く言葉を吐いた。
小さいときの入院と、今、夢を見ることが、なにが問題なのか、まったくわからなかったからだ。
すると、お父さんとお母さんが互いの顔を見て、なにか納得した表情になって、お父さんから話し始めた。
「お前はあの事故のとき、実は一度、死んだんだ」
「……へっ?」
「嘘じゃないのよ。頭を強く打って死亡したの」
「じゃ、じゃあ、……どうして私は今、生きてるの? 別になんともないよ」
口の中はさすがにからからに乾き始めていた。
「うん。それは偶然に運び込まれた病院の先生が、お前を助けてくれたからだ」
「とても腕のいいお医者さんだったの。だから、みすずは今も元気に生きていられるの」
「う、うん。……そうなんだ」
お父さんとお母さんの表情から、私を助けてくれたお医者さんが名医なのはわかった。
だけど、やっぱりなにが言いたいのかわからない。
「……ここからが、肝心なんだ。お前は明日、十七歳になる。だから今夜のうちに言って置こうと、以前からお母さんと話し合っていた」
「これは、とっても大事なのよ。心して聞いてね」
そして、――ある事実を言われることになったのだ。
「お前はただの人間じゃない。……改造人間なんだ」
「確か、お医者さんはサイボーグと言っていたわ」
……人間じゃないって。……サイボーグって。
頭が混乱してきた。そして両親がなにか悪い冗談を言っているのだとしか思えなかった。なにか驚かそうとして言っているとしか考えられなかったのだ。
だけど、そんな思いは次のお父さんの行動で一蹴された。お父さんは一枚の名刺を私に見せたのだ。
「明日、学校は遅刻しなさい。そして朝いちばんにその病院に行くんだ」
「担任の先生には、お母さんから言って置くわ。……風邪を引いたって」
そして私は名刺を手渡された。
私はその名刺を見て絶句した。
そこには近くにある
「……
私は気がついたら声に出して読んでいた。
「ああ。明日その先生に診断してもらいなさい」
「東田先生は、みすずを待ってるわ」
なぜ産婦人科? 小学校一年生の私が事故で入院したのは頭を強く打ったからだと聞かされていたし、今もお母さんにそう言われたからだ。なによりも頭の傷跡が動かぬ証拠だ。
「今、お前が疑問に思うのは当然だ」
「でも、行けばわかるのよ」
そう説得されたのである。
――そしてその夜、夢を見た。
それは中年だけど美人の女医さんに診断されている夢だった。
なにか重要なことを言われたのだけど、その内容は目覚めたときにはすっかり忘れてしまっていた。
そして私は両親の言いつけ通り、十七歳の誕生日を向かえた翌朝に東田産婦人科医院に向かったのである。
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