勇者印のマジック箱

夏伐

勇者印は”信頼”の印!

 俺には魔法使いの才能があった。

 そこそこ頭が良かったのだろう、努力をすれば結果的に報われた。それでも本物の才能には敵わず、器用貧乏とはいえ平民としては夢の高給取りになることができた。


 地道に働いて、そのうち結婚して子供ができて……。

 毎日、なんだかんだそこそこ真面目に安定した生活をしていた。


 派手な仕事は貴族出身の魔法使いたちの出番。俺みたいなのは毎日地味な生活だ。


「きみ、勇者パーティーに行ってみる気はない?」


 研究バカな部長に、そんな言葉を投げかけられ俺は即座に「はい!」と答えた。


 俺にもついにチャンスが来た、神は見ていた、その誘いを受けた瞬間は舞い上がるほど嬉しかった。


 だが……。


 異世界からやってきた勇者の発想に、並みのものでは対応できず。

 女であれば、ハーレム要員。


 元々貴族出身の魔法使いが、召喚した責任をもって異世界人と騎士、シーフとともに災害級の問題ごとを解決していたのだが、まさかのご懐妊。


 今は初期メンバーが総入れ替えされ、引退した老騎士、手癖と品行が悪すぎて腕を切り落とされる寸前だった死刑囚、事務しごとや武器の手入れまでばっちりな俺の四人になったらしい。


 メンバーも色々入れ替わっていたが、獣人、テイムしたモンスターまで含め、人間のような女であれば全てストライクゾーンというとんでも勇者のせいで、勇者の淫行ギャインに耐えられる性格も必須事項となった。


 とはいえ、気さくな青年である……。


「さすが! 魔法使いはすごいな!!」


 勇者は手でつかめるくらいの小さな箱を持って飛び跳ねている。


「勇者さま、さすがに無理じゃないですか……?」


「やってみないことには分からないじゃないか!!」


 召喚されたのが『鑑定』とか『剣聖』レアスキルやレア称号だったら良かったのに、なぜよりにもよって『勇者』だったのか……。


 俺が魔法で作り出した箱を持って、勇者はダンジョンに飛び込んでいった。


 老騎士と死刑囚もといシーフは、正反対の性格だったが勇者についての認識が同じだったようでその点で馬が合うらしい。


 年が近いうえに、勇者の無理難題をクリアできる俺に同情的だ。


「騎士さま、いけると思いますか?」


 洞窟に擬態したダンジョン、見習い冒険者もよく来るここは街に近い森の中にある。

 出てくるモンスターも見習いが対応できるものが多いのが特徴だ。


 老騎士は腕を組んで、しみじみと洞窟に目を向ける。


「あいつならやりかねん……」


「俺がいうのもなんだけど、」シーフも老騎士と同じような目を洞窟に向けた。「俺が勇者として生まれてたらもっと真っ当に生きてたと思うぜ……」


「みなさん……」


 殺人も辞さず死刑囚になるまで悪行を重ねた男にまでそんな評価をされるのか、あいつは……。


「俺たちはまぁ年だからとか、嫁以外にはたたないとか言い訳してるからいいけど。今回も実験台はお前だぜ?」


「うむ」老騎士もシーフも、洞窟に向けていた憐みの目を俺に向けた。「前任の魔法使いもこれらに耐えられずに辞めてしまった……」


「やっぱり今回も無理ですか?」


「「ミミックは無理」」


 こんな仕事が勇者パーティにあるなら俺だって断ってた。だが、給料はあがったし危険は少ないし、何より――!


 幼いころに天才だなんだともてはやされていた時と似た空気感の中に入れた事に脳が快感を覚えてしまっている!!!


 俺は勇者パーティを抜けられない!!!


 三人で洞窟を眺めていると、タタタと軽い足取りで勇者が走って来た。

 異様な興奮状態に俺たちは、今回は成功したのだと安心しつつ地獄のはじまりを覚悟した。


「これは売れるって!!!! みんな、試してみてくれ!!!」


 勇者は箱に浄化魔法をかけて、それを差し出した。

 老騎士もシーフも目を泳がせる。弩級のモンスターを見てもニヤリと笑う二人もこれを正面から見ることはできなかった。


 小さな箱に、テイムしたミミックを入れたもの。勇者はアイディアの検証とミミックを捕獲するためにダンジョンに向かっていたのだ。


「間違ってかじったらどうするんですか?」


「大丈夫!! 歯があんまりない個体を選んでむしってきた!」


 あんまりないって……。キラキラと目を輝かせる勇者がジリジリと迫ってくる。


「わしには嫁がいる、すまない」

「俺は幼馴染のお姉ちゃんがいるから」


 老騎士とシーフがガシリと俺の肩をつかんだ。勇者は俺に箱を手渡し、「最高だから!!」と謎の感想を告げる。


「せ、せめてダンジョンの中でやってきていいですか……」


 青ざめる俺をよそに、勇者は「まあ人前じゃあな!」と心よく送り出してくれた。


 ダンジョンの中で、岩陰に隠れ俺は箱を開く。小さなミミックが口を開けていた。


「これは仕事これは仕事これは仕事」


 万が一、性器がちぎれても労災労災労災……。俺は自分に何度も言い聞かせた。慰謝料は出るだろう、今までやめていった勇者パーティのメンバーたちももらってたし。


 というか、浄化魔法使ったとしてもこれさっき勇者が使ったんだよな……。そう思うとこの箱をぶっ壊したくなるが、これでテストしなかったことで一般人に被害が出たら俺の責任だ。


 何度も深呼吸して、覚悟を決める。俺は自分のち〇こを、箱の中に入れた。


――アッ!

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