第13話
サーディルは下唇を噛み締めた。
「僕が早く気持ちを父に話していれば……」
「サーディル」
お祖母様は心配そうにサーディルを見つめメイドにタオルを用意させる。
「そうしていれば、オリビアはノイデル伯爵家に行かずに済んだかもしれない。領地も持たない次男坊である僕は簡単にプロポーズできなかったんだ。せめて自分を父に認めてもらってからだと考えていた。
僕が頑張る理由を周りに伝えていればよかったんだ。
ごめんね、オリビア」
「サーディルが気にすることではない」
お祖父様がサーディルを慰めるが、サーディルの後悔は消えないようだ。
オリビアは緊張のあまりすぐに奥に行ってしまい、私が表に出ている。オリビアに話は聞こえていることをサーディルには伝えてある。
サーディルは眉を寄せてお祖父様に詰め寄る。
「これからどうなさるご予定ですか?」
『このままということはないですよね?』と単に確認とも暗に脅しとも取れる。
「来週のオリビアの誕生日を迎えるまでは何もできない。オリビアがここにいることも公表できない。家出だ誘拐だと騒がれたくないから、ノイデル伯爵に知られるわけにはいかんのだ。
オリビアが成人の誕生日を迎えたらすぐに養子の手続きをする」
フィゾルド侯爵家の後継はエリオナお母様ただ一人。しかし、オリビアのお父様であるノイデル伯爵と恋愛し婚姻した。そして、二人目の子供が男であろうと女であろうとフィゾルド侯爵家の後継とするつもりだったそうだ。ノイデル伯爵とも結婚する時に正式に契約していた。
お母様はお祖父様お祖母様に心配かけたくなかったのだろう、ジリーお兄様を出産の後、心臓を患ったことは内緒にしていた。だからお祖父様たちは二人目の子供を楽しみにしていたそうだ。
そして、待ち焦がれた二人目の子供がオリビアである。ノイデル伯爵に連れて行かれてしまったオリビアだが、お祖父様はオリビアが成人したら正式に迎えに行き、後継として養子縁組する段取りをすでにしていた。
「サーディル。オリビアとの婚姻を望むというのはそういうこと―侯爵領地を継ぐ―だ。覚悟はあるのか?」
お祖父様は厳しい顔つきだった。
「私は父から爵位を受けたいがために勉強してきました。それがオリビアを迎えるために必要だと思ったからです。それを侯爵家で使えるのなら僥倖です」
「まずはオリビアに『ウン』と言わせることだな。我が家としてはオリビアに養子を取らせてもいいのだ」
お祖父様はサーディルを一睨みする。
「これからは遠慮なくやらせていただきます」
「オリビアは引っ込み思案なの。お手柔らかにね」
お祖母様は嬉しそうだった。
〰️ 〰️ 〰️
こうして迎えたお披露目パーティー。父親と兄に『ザマァ』をして追い返し、化粧直しをしたオリビアが、サーディルのエスコートで会場に戻る。
舞台のように用意されていたテラスへとバレルが誘導していく。
みながお祖父様フィゾルド侯爵に注目した。
「みなさま、先程、我フィゾルド侯爵家の後継者オリビアを紹介させていただきましたが、もう一つご報告があります。
孫娘オリビアとタニャック公爵家が次男サーディルが婚約いたしました」
オリビアが美しいカーテシーで、サーディルも紳士の礼でお客様に挨拶をした。
会場中から割れんばかりの拍手が響く。
「若い二人でフィゾルド侯爵家を盛り立ててまいりますので、今後とも二人を見守ってやってください」
お祖父様お祖母様は会場へ笑顔を送った。
それからは和やかな雰囲気の後継者のお披露目パーティーとなった。
〰️ 〰️ 〰️
その日の夜、バレルとナッツィを含めた六人は応接室にいた。
「ノイデル伯爵はこちらに何かしてきますか?」
サーディルはそうお祖父様に確認しながらもオリビアの手をギュッと握る。何かしてきても守ると言っているようだ。 ノイデル伯爵からの復讐を警戒するサーディルの意見に、お祖父様は頭を振って否定する。
「いや。ヤツは方法は間違えたかもしれぬが、エリオナを愛しんでいたことは確かだ。だからこそ、シズの言い分に打ちのめされただろう。それをさらにオリビアへ八つ当たりするほどの愚か者ではないと思う」
愛する妻を殺したのは自分であるというのはノイデル伯爵にとって何より辛いことに違いない。
「『エリオナの頑張りを否定し続けた』という事実もまた衝撃だったろうしな」
お祖父様はノイデル伯爵にそれを言ったお祖母様を愛しげに見つめた。お祖母様も優しく微笑んで答える。
「逆に自害をしてしまわぬかと思うほどだ。執事を一人向かわせノイデル伯爵家の執事に見張りをするように指示はした」
オリビアは会場でのノイデル伯爵の姿を思い出していた。まるで抜け殻のようであった。
しかし、オリビアにとってもっと気になることがあったのだ。
「お父様はわたくしとシズに気がつきもしませんでしたわね」
「そうね。彼の目にはエリオナしか見えていないのよ。ジリーがあのように育ってしまったのも、父親からの愛情がないからだわ。『母親がいれば愛されていたかもしれない』という気持ちが貴女への虐待に繋がってしまったのだと思うわ」
お祖母様はもう一人の孫であるジリーを思い悲しそうな顔をした。
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