承諾
毎晩、そして昼間に少しだけ、雲徳和尚は寺の行事が終わると梓が居る屋敷へと毎日欠かさず来てくれていた。梓の母が亡くなってからというもの、住職が「衣」「食」を工面してくれるようになり「住」と言えばマヨヒガ屋敷でしか住めないことは、梓も十分に痛いというほど理解している。
「あっちゃん、もう大丈夫。この子の身体は掠り傷だけで、ただ眠っているだけのようです」
「・・・・・・」
「・・・ところで、この子はどこから?」
「テングさん」
「え??」
「テングさんが、おねがいって」
「ほぉ・・・天狗かぁ。・・・あっちゃんは、その天狗さん、悪い感じがしましたかな?」
「ううん、いい人だったよ。この子を助けてって。んで、この子になるって、ごめんねだって」
「この子、に成る?・・・あ、お熱あるかな?あっちゃん、おでこ触ってこの子のお熱を見てあげてみて?」
「・・・・・・」
梓が住職に言われるがまま素直に目を綴り、男の子のおでこに手を当て温度を感じ取っていると、男の子の輪郭がほんのりとダブって見えた。手足の肌感がなんとなく木材のように木目を刻み、何かが憑りついているのが明確だった。が、梓が悪い霊の気を感じていないのと、今も触れた梓の身体へと移動し乗り移ろうとしない横たわる存在は、何か意味があってこの子の中に入っていると読み取った。住職はそっと、手にした数珠を懐へと戻す。
「おねつ、ないみたいだよ」
「じゃ、汚れたお身体をキレイ綺麗しましょう。手伝ってくれるかい?」
「うん!!」
梓はまるで弟が出来たみたいに、どうなるかも分からない不思議な感覚で得も言えぬ好奇心と、これから一緒に遊んだりできるという今後の展望みたいなものをなんとなく見るような、なんとも言えない喜びを心の奥底に感じていた。
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