第18歩 日曜日のこと
「じゃあ1時間後に」
と言って、交差点で朝日課長と木下次長は別れた。
2人は今日映画を見に出かけたのだが、軽めのランチをとり店を出ると、上映まで一時間ある。
一時間、何をするか、と相談したりもせず、2人は自然に別行動を選んだ。
朝日課長と木下次長は頻繁に遊ぶし、揃って約束の時間より早く着くこともしばしばで、他の友人達からは「気持ち悪いくらい仲が良い」と評されるが、こうして別行動をすることも珍しくない。
若いころからお互いの違いを楽しんできた。違うからこそ今まで友情が続いたとも言える。相手のペースに合わせてみればそれなりに楽しめるし、好きなことだけをしたい日もある。
朝日課長はただ書店をぶらぶら歩いて漫画の帯を眺めている。
カフェが併設されているので飽きたらアイスコーヒーを飲もうと決めていたが、これがなかなか飽きない。
朝日課長はグレーのボディバッグと同じ色のチューリップハットを深くかぶり、細い長身をダボッとした服で包んでいた。
スニーカーは緑でジャケットの襟も緑色。
統一感のあるようなないようなファッションのせいか、年齢より若く見える。
新作の漫画を一冊手に取ると、そのままレジへ向かう。
少し早いけど、映画館へ戻ってこれ読みながら待とうかな。
シュリンクをはずしてもらい、レシートを挟んだ漫画を片手に、またぶらぶら歩きはじめる。
どうやらアイスコーヒーの事は忘れたようだ。
木下次長は古着屋にいた。黒いジーンズ、赤系のネルシャツの上にベージュのトレーナー、白いスニーカーはおろしたてのようにきれいで、差し色の靴下は黄色。この靴下にはヒヨコのワンポイントが付いているが、ひよこも黄色いのでよく見ないと見つけられない。
肩から掛けたトートバッグはもう20年愛用していて、ところどころ修繕の跡がある。
暫く革ジャンを吟味していたが、何だか喉を潤したい気分になったので、早めに映画館に戻ってナチョスとビールを楽しむことにした。
映画館に戻る途中の店で文具を見たり、雑貨を見たりしていると、余裕のある仕草とは裏腹に足はどんどん早くビールに辿り着こうとする。
映画館のロビーで、「えらいのんびり本読んでる人がおるな」と思っていたらそれが朝日課長だったので、木下次長はビールを2杯注文した。
「ナチョスとビールください、ビールは2杯!」と聞き覚えのある声とイントネーションに顔を上げた朝日課長は、声の主が木下次長だったので本を閉じて立ち上がった。
結局、別行動しててもなーんか、こうなるな。
そんな事を考えながら自然と合流する。
「あ、今気づいたけど」と言って朝日課長が自分のズボンの裾を持ち上げる。
現れた白い靴下には、白いニワトリのワンポイントがついている。
木下次長も裾をめくる。
『お揃い!イエー』同時に2人はそう言って、拳を合わせた。
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