第8歩 社食の君

私の働く会社には、社員食堂があります。

毎日たった400円で日替わりの3種類から好きなメニューを選べます。

社員食堂で働いている人たちは外注の業者ではなく直接雇用で、定年後の再雇用としてアルバイトをしている人や、産休・育休は明けたものの短時間しか働けない人の受け皿にもなっています。

外食部門に異動する前の社員研修にもつかわれます。

社員食堂に最近、何だか素敵な男性がひとり増えました。

たくちゃん、と呼ばれていて30歳くらい。いつも笑顔で気が弱そうなのに、トレーを渡すときに必ず目を合わせてくれます。

この前、木下次長(会社の偉い人で、おじさんなんだけどなんか社内の人気者です。)が「馬路村のポン酢、美味しすぎるから持ってきたし明日の社食のメニュー鍋にしてもらえる?」と、たくちゃんにポン酢を段ボールで渡しながら話しかけていました。すると翌日本当に一人鍋のメニューがありました。

仕事が早いのです。

馬路村がどこにあるのか知らずにおいしいおいしいと食べていたら、「ぼくも高知に旅行して、これ食べたことあったんです、おいしいですよね」と、話しかけられました。

慌てすぎて鼻から葛切りが出るほどむせました。

それにしても気さくで物知りです。

あの人も研修組なのでしょうか、それともアルバイトなのでしょうか。

一度白田さんが、「今度ライブ行くときにたくぼんのお姉ちゃん…」と話していたのですが、聞き耳を立てたいのに一緒にいた同僚のリカちゃんが話しかけてきて最後まで聞こえませんでした。

あ、白田さんも同僚です、あ、センパイです。

まさか白田さんといい仲なのでしょうか。

たくちゃん、お姉さんがいるんですね。

あ、木下次長がまたたくちゃんに話しかけています。

リカちゃんちょっと、うどんすするのやめて、聞こえない。

たくちゃんが笑っています。

木下次長も笑っているのが視界に入ってきたので心の中トリミング。

ありがとうたくちゃん、あなたの笑顔と料理で午後からも頑張れそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る