第13話 『まさかまさかの、新入部員 その1』

 今年のゴールデンウィークは、なんだかんだで充実していたような気がする。


 美也子とのお出かけや、まぁ、夏海との一件。それと麻冬とも話すことができた。


 去年はひたすらバイトをし、その合間に麻冬と2回ほどご飯に行った。


 もちろん、それはそれでとても充実してたのだが、今年は予定のほとんどを出歩き、誰かと、何かしらの思い出が多かったと感じる。


 そして、そんな充実していたゴールデンウィークは、早くも終わりを告げ。


「……」


 今日から学校が始まる。そんな妙な倦怠感と緊張感に、アラームが鳴る前に目を覚ました。


 具体的に、何分前に起きてしまったのか分からないが、とにかく、もういくらか慣れてしまった、俺以外の温かさに小さくため息を吐く。


 そして、ゆっくりと毛布を捲ると、案の定目に入ってきたのは、金色の髪の毛で。


「んっ……えへへ。おはよ〜、お兄さん……」


 毛布の中からこちらを覗く夏海は、寝ぼけ眼をこすりながら、あくびをした。


「お前なぁ……てか、いい加減に」


 そう、言いかけたところで夏海は「え〜、いいじゃん」と、微笑みながら、少しずつ俺の顔の方へと這い上がる。


 そして、俺の胸に手をつき、腕の間から綺麗な顔を出すと。


「んっ」


 夏海は、俺の首筋を唇で吸った。


 確か以前にあったのはゴールデンウィーク2日目。


 あれからやっと、キスのアザが消えたと思ったのに、こいつはまた同じところに、吸い付きやがった。


 ぬるりとした感触と、んっ。と言う吐息に混じって、時々漏れる生暖かい鼻息。


 夏海の肉付きのいい太ももが、俺の左足を挟み込む。


 その温かさと、首筋の感触にどきりとしていると、キュッと太ももが締め付けたタイミングで、首筋にツーンとした痛みが走った。


 強く吸い付いたことによって、彼女の前歯が当たっているのだろう。


 それには、思わず「痛えよ」と、彼女の肩を優しく押した。


 すると、水気を帯びた吸盤を剥がすような音と共に、首筋の痛みが離れる。


 少し荒くなっていた鼻息を整えるように、数回呼吸を繰り返すと、


「はぁ……はぁ……ふふっ。あーあ、お兄さんが離すの遅いから、またアザになっちゃった」


 夏海は、ぺろりと唇を舐めた。


「いや、お前が勝手につけたんだろ」


「えー、でもその割には……ふふっ。こっちは元気になってるよ?」


「……っ! いや……これは……」


 夏海のそんなセリフに、思わずどきりとする。


 仕方ない。こんな朝の寝起きで、しかも、可愛い女の子にこんな事をされて反応するなと言う方が難しい。


 だけど、恥ずかしいものは恥ずかしくて、俺は彼女から視線を逸らすと、「生理現象なんだよ……」と呟いた。


「そっか〜。で〜も〜。もし、もう我慢ができないって時には、いつでも私にキス、してくれていいんだよ? そしたら……」


 そこで言葉を止めると、再び顔をこちらに近づける夏海。


 今度は何をされてしまうのか。


 そんな風に、思わず目を瞑ると。


「……ふふっ。そしたら、私の全部、お兄さんにあげるね♡」


 夏海は俺の耳にボソリと息を吹き込んで、耳の縁を舌でなぞった。


 その生暖かくてなんとも言えない感触に、思わずぞくりとすると、先に上体を起こした夏海が鼻を鳴らす。


「ほら、そろそろ起きて。朝ごはんできてるよ? ……あ、それとも、こう言われた方は嬉しいのかな?」


 そして、夏海は一呼吸おくと。


「早く起きろ♪ マゾなお兄さん♪」


 くすりと、挑発するように微笑んだ。


 彼女の魔性的な表情と、立ち膝になった事により、見えた太ももにどきりとしていると、彼女はヒョイっとベッドから降りる。


 ちょっといけない事をしているような背徳感と、後輩の女の子に、いいようにされている悔しさを、なんとも言えない気持ちで噛み締め、俺もゆっくりと起き上がる。


 だけど、まぁ。


「……夏海」


「ん? なに? あ、もしかして、やっぱり私に」


「今日もとびっきり可愛いな」


「……」


 …………。


「……っ! え、あ……」


 俺がそう言った瞬間、ドアノブを握っていた彼女が、顔を両手で覆う。


 きっと、この前みたいに、恥ずかしさで顔が真っ赤になっているのだろう。


 ならば……。


 ドアの前で、モジモジとしている彼女の両手を掴むと、顔を隠せないよう、バンザイみたいな格好のまま、夏海をドアに押し付ける。


 案の定、頬を真っ赤に染めていた夏海は、


「やぁ……見ないで……離して」


 と顔を俺から背ける。


 てか、なんで攻めんのは得意なのに、攻められると弱いんだよ。


 でもまぁ、これもいい機会だ。


 とことんやり返してやる。


「離してやってもいいが、その代わり、しっかりこっち見ろ」


「……うん」

 

 そうして、ゆっくりと顔をこちらへと戻した夏海。


 綺麗な金色の前髪。その奥で、青い瞳がうるりと揺れる。


「夏海は肌が綺麗で、目も大人っぽくて」


「……っ!」


「髪もサラサラで、可愛いし、料理もできるし」


「ま、待って……もう、これ以上は……顔……変になっちゃう……」


「……そしたら、俺に言うこと、あるよな?」


 俺がそういうと、もう、泣きそうなぐらい顔を真っ赤にして、目元に涙を浮べる夏海は、ゆっくりと顔をこちらに向け、


「……キスマークつけて、ごめんなさい」


 そう、ボソリと呟くように、口を開く。


 なんて言うか、そんなしおらしい夏海は、忖度なしに可愛いなって思ったが、


「……今日は許してやる」


 これ以上は言わない約束だったので、掴んでいた華奢な手首を離す。


 すると彼女は、へたり込むように、床にペタンと座り込むと、両手で顔を隠しながら、しばらくの間モジモジとしていた。


 

 








 


 

 


 

 



 

 

 


 


 


 

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