大型魔獣を魔法で倒したんだけど。魔法が弱いってのは言ってたのは誰かしら?

「待ってて、風紀委員ちゃんっ!俺がすぐ助けにてあげるから!」


とある市街地の中にて。

駆けつけたジャックが、思いきりそう叫んだ。

彼の視線の先にあるのは───怪獣のように大きな、狼のような姿の怪物。全身が燃えるように赤い体毛に覆われており、睨まれるだけで恐ろしい迫力を感じる。

魔物の名はレッドウルフ。普段は森などに住んでいて、こんな人里の中に現れたりはしないはずだが。

魔物の真下には…看護婦の格好をした小柄な少女が、怯えたようにへたりこんでいた。


「すっ、すみませんっ……お手を煩わせてすみませえぇん……」


蚊の鳴くようなか細い声で、彼女は助けを求めた。

彼女はリコ(ISFJ)。回復や身体強化に関する魔法が得意な補助役だ。しかし残念なことに、戦闘能力はほとんど無い。


(時間をかけても危険だろう。ここは一気に勝負をつけるのが得策だな…)


「いくぞっ!」


ENFJはそう叫ぶと、両側の腰にさした二丁のハンドガンを構える。いわゆる二丁持ち、と言われるスタイルだ。

おまけにこの銃はただの銃とは違う。対魔物用に作り出された、超硬質の弾を発射できる。


ジャックは勝利を確信した。一発でも撃ち込んでやれば、眉間に穴を開けられるだろうと。


「はるばるご苦労だね、ワンちゃん。でも残念だけど…地獄に落ちてもらうよッ!!」


そう叫びつつ、彼はレッドウルフの額めがけて拳銃を発砲した。


銃声が二発同時に鳴り響き、獣の額に向かって銃弾が放たれた。

しかし。


ガキイィィンッ!


「……えっ…弾かれた…?」


レッドウルフの身体には、傷一つついていなかった。想定外の事態に、ジャックの手からポロリと銃が滑り落ちる。

畳み掛けるようにして…レッドウルフの牙から、赤い閃光が瞬くのが見えた。


(この気配…っまさか、炎魔法!?そんな、魔物が魔法を使うとか聞いてないし…!)


通常、魔法を使うには高い知能が必要だ。人間でも、たくさんの勉強と訓練を積み重ねないと使えない。魔物には不可能に決まってる。

そのハズだが───ごくたまに、魔法を扱える魔物も存在する。


「くそっ!」


慌てて防御体勢に入るも、相手の魔力量は思っていたよりも大きい。かなり強力な魔法が飛んできそうだ。


(防ぎきれるか…!?いや、ダメだ。あんなの喰らったら間違いなく耐えられない…!)


ジャックの脳裏に、「死」という単語がハッキリと浮かぶ。

遠くの方から「逃げてくださいッ!」というリコの叫び声が聞こえてた気がした。


口の炎はどんどん大きくなっていく。そしてついに…


「グオオオオオッ!!」


巨大な火球が、凄まじいスピードで放出されたのだった。


彼ははぎゅっと目を瞑る。


(ウソだろ、こんなところで死ぬとか…ありえないじゃん…)


しかし。

次に待っていたのは、身体を焼き焦がす熱などではなく───


「…なにやってるの?炎魔法を身体で受け止めようなんて、馬鹿なんじゃないかしら。」


凍えるように冷たい、彼女の言葉だった。


見上げてみるとそこには───冷めた眼差しで見下ろしてくる、ルークの姿が。


彼女の手からは青白いバリアのようなものが発生しており、それが火球を受け止めたらしい。


「ルーク!?助けに来てくれたの!?ていうか、な、なにそのバリア…」

「…これが、あなたがバカにしてた魔法の力よ。それよりも…あの魔獣…」


さっぱりとそう言って、彼女はレッドウルフを指差した。


「あいつ、魔物にしては特別な魔力を持っているようね。きっと研究の材料に使えるわ。」

「ねぇ、もしも…あいつが材料に使えなさそうだったら、君はどうしてたの…?」

「………まぁ、あんたを見捨ててたかも。」

「…ヒェ~…」


ジャックは思わず縮み上がった。しかしそれを気にせずに、彼女は呪文らしきものを詠唱し始める。


「気をつけろ、あの狼…俺の獣で傷一つつかなかったよ。防御力は相当と見た…君の力じゃ敵わないと思うけど。」

「あなた…銃ぶっ放す以外の戦法を知らないの?どれだけ間抜けなのよ。」

「ま、間抜けって…」


「グルルルル…!」


唸り声に気づいて見てみると、レッドウルフが再び魔法を撃つ体勢に入っていた。

このままでは再び、あの火球攻撃が始まるだろう。


「ル、ルーク!まずいよっ!なんとか回避しないと!」

「回避する必要なんて無いわ。───精霊よ、私に力を与えよ…蒼の魔法、ラピス・エッジ。………あの獣の心臓を、貫きなさい。」


彼女が冷たい声で呟いたと同時に…


手のひらから、真っ青な氷でできたナイフが飛び出してきた。ナイフはまるで意思を持っているかのようにくるくるとその場で回る。


「なッ……こ、これが、魔法……!?俺が知ってるのよりも、全然強そうなんですけど…なにこれ…?」


そしてナイフは、ピタリと動きを止めたかと思うと…レッドウルフめがけて、目にも止まらぬ速度で飛行していった。

蒼い刃が、赤い毛に覆われた左胸にブスリと沈みこむ。


「グアアアアアアアアアアッ!!!」


するとどうだろう…あんなに強大で頑丈だった魔獣が、あっさりと倒れたではないか。


「な、なんだって…!?俺が撃った時は全然効かなかったのに…なんであんな小さいナイフなんかで!?」

「重要なのは力じゃないの。魔法の相性よ。あの狼は炎の属性を持っていたから、真逆の氷魔法で攻撃するべきだと判断しただけ。…これで、魔法の偉大さが少しは分かったかしら?銃オタクさん。」


当然だと言わんばかりに、ルークはそう吐き捨てた。ジャックは思わず、悔しそうな顔でうなだれる。


「お、お二人ともご迷惑をおかけしましたぁ…!!すみませんっ!すみませんっ!!」

「い、いいんだよ風紀委員ちゃん…そんな頭下げなくても。」

「謝らなくてもいいわ。それよりも、次は自分の身は自分で守れるようになりなさ…え?あれ、何かしら…」


ふと、彼女の視界に何か不審なものが映った。ぐったりと倒れた魔獣の背中に、何かが突き刺さっている。

それは真っ白な輝きを放つ、槍だった。ジャックの銃弾が通用しなかった肉体を貫き、深々と突き刺さっている。

普通の武器じゃないのは明白だった。


「何だ…?あの槍、柄の部分に紙が巻きついてるぞ。ちょっと読んでみるよ。」


興味深そうな声で呟いたかと思うと、ジャックはひょいとウルフの背中に飛び乗った。そして紙を剥がして読み上げる。


「なになに……『MBTIの名を持つ諸君。君たちに、一生に一度しかないチャンスを与えよう。私はとある秘宝をこの国のどこかに隠してきた。その秘宝とは…』」


「『……世界に一匹しか存在しないドラゴンから採った、"天龍のウロコ"だ。そのウロコには、力があるとされる。私はもうすぐこの世を去る。誰が取ろうとかまわない。最初に見つけた者にそれをゆずろう。さぁ、奪い合え。MBTIの名を持つ者たちよ。』」

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