第10話 制裁する筋肉

「フッフッフ、ハーハハッ! 手ぶらで何ができると言うんだこのお嬢さんは、怪我をしないうちに――グファッ!?」


「うるさい奴だ、さっさと参れと申しただろう」


 高笑いするやかましい黄色の腹部を殴ると簡単に吹き飛んでいき、木にのめり込み倒れた。


「なっ!? テメェ! 何を!」


「殴っただけだが。腹筋を鍛えんから耐えれんのだ」


「――このっ!」


「なんだ、このなまくらは」


 赤が振り下ろした剣を左腕で受け止めるとそのまま折れてしまった。

 玩具でも使っておるのかコイツらは。


「なっ!? 嘘、だ、ろ?」


 目を見開く奴の顔は実に滑稽だ。

 クリフトの方がまだ手応えがあったぞ。


「もう終わりか?」


「なっ! 舐めやがって!」


「ほう? やはり軟弱だな」


「……嘘、だ、ろ?」


 拳を出してきたから手のひらで受け止めてやる。

 全く衝撃を感じない攻撃、逆にそのまま少し握りしめてやるとプルプルと苦悶の表情をする。


「鍛え直せ。筋肉もなければ、腰も入ってない。体重移動すらもできておらん。基本からやり直しだ」


「――グニョリッ!?」


 そのまま握りつぶし、手の骨を砕く。

 折れた変な音と、変な奇声を上げ白目を向く哀れな奴をそのまま黄色の元に放り投げた。


「後は貴様だけだな」


 大きな盾を前に構えている緑に近づく。

 盾か、やはりいささか堅いのだろうか。


「ヒィッ! だ、だが、流石にこの盾の前では――ヒョエッ!?」


「盾がなんだって?」


 拳でいとも簡単に穴が開いた軟弱な盾に何を期待したんだコイツは。


「来るなっ! 来ないでくれ!」


「失敬なヤツだ、近づいてきたのは貴様らの方だろう」


 すっかり戦意を失い尻餅をつきよった緑。

 倒れたまま穴の空いた盾を必死にかざしている。

 ふむ、このままでは味気ないな。


「ふんぬっ!」


 あの時の様にすると再び俺の筋肉が現れる。

 そうか、やはりこうすれば筋肉が現れるんだな!


 美しい、やはり美しい筋肉だ。

 前世にはまだ敵わんが、見て触って惚れ惚れとしてしまう。

 服を破けん素材にしたのが演出的には残念だが……。


「ばっ! 化け物!」


「失礼だな、こんな美しい物を見てなんて言いぐさだ。しかもこの場合俺が正義だろう。そうだな、こういう時は……『筋肉に代わってお仕置きよ』とでも言っておくべきか」


 失礼な悪役にあの国民的アニメのセリフとポーズを披露してやる。


「なに気持ち悪いものを見せや――ボヘミアッ!?」


 最後まで失礼なヤツだったな。

 盾を貫通し地面に殴りつけた奴は動かんくなってしまった。

 全くどいつもこいつも筋トレがなっとらんな。


「さて、どうするか……」


 木のそばに積み重ねた信号機を見て考える。

 魔物がいればこのまま餌になったりはするのだろうか。

 放っておけば流石にまずいな。


「フン!」


 3人を担ぎ上げ、一先ずゲートを目指す。

 帰る時はまたあのゲートを潜ればいいらしい。

 魔物とやらと戦えんかったのは残念だが、今日はこれで良しとしておこう。


 ゲートに向かい草原を歩く。

 やはりゲート周りは人がいるな。

 で、なんか視線をやたら感じるが気のせいか?


 あぁ今は美しい筋肉ボデイだったな、みな見惚れておるのか。

 納得だ、なら見せびらかせてやろう。


「ふんぬ!」


 力を入れ筋肉をさらに浮き上がらせてやる、どうだ?

 ……なぜ視線を逸らすんだ、恥ずかしがらず見れば良かろうに。


 不服だが、そのままゲートを潜って戻った。


「あ、あの……これは一体?」


「変態どもですわ。処理してくださいませ」


「はぁ……」


 守衛に3人を引き渡してやる。

 これでいいだろう、さて帰るとするか。


 ♢


「アイナお嬢様」


「なんですかリリファ」


「気持ち悪いので早く元の姿に戻ってください」


 その後、帰ってそうそうメイドに失礼なことを言われた。

 

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