第8話 筋肉の冒険者デビュー

「リリファ、髪を切っていただけますか?」


「はい、お嬢様。どのくらいにいたしましょう」


「バッサリとしてくださいませ」


「かしこまりました」


 今日はついに冒険者になる日である。

 これから戦う機会が多くなるはずだ、この長い髪は邪魔なので切ってもらうことにした。


 ♢


「いかがでしょうか」


「とてもいいですわ、ありがとう」


「いえ、それは良かったです」


 手鏡を渡され見てみるとバッサリショートヘアーになった俺が映る。

 うむ風通しも良くなった、なにより首を振っても邪魔にならんのがいい。


「本当に1人でいくつもりですか? 私も同行した方が――」


「結構ですわ、私は大丈夫。強さは見たでしょ?」


「はぁ……」


 一緒に来られてはまた何かと口出しされそうだ。

 それはめんどくさい。

 あれからちょび髭親父は何も言わなくなった、好きにしろと半ば投げやりである。


「では行って参りますわね」


「はい、お気をつけて」


 動きやすい軽装に着替え外に出る。

 一面の青空、筋肉が光合成してしまいそうな程眩しい太陽だ。

 なんという良き日であろうか。

 これは幸先が良いというやつであるな。


 ♢


「うむ、そんなに遠くなかったな」


 前の記憶では馬車で30分程だった街までの道だが、ジョギングで5分程度しかかからんかった。

 馬という奴は結構ノロマなんだな。


「ここだな」


 ギルドとやらの建物に到着する。

 前と同じく繁盛しているらしく、冒険者とやらがたくさん出入りしている。


「たのもう!」


 中に入ると皆の視線が集まる。

 なんだ、まだ注目されるほど何もしておらんぞ。

 いやそうか口調を間違えたな、いけないいけない、つい口煩いのがいなくて油断したわ。


 確か受付にいくのだったな。


「お願いできますでしょうか?」


「は、はいなんでしょう……」


 なんだ、なぜそんなに警戒する?


「冒険者になりたいのですけれど」


「あ、そうですか。それではこちらの用紙の記載をお願いします」


「わかりましたわ」


 用紙を渡され、記載していく。

 これは履歴書みたいだな。

 名前に性別、年齢に……うむ、これでいいだろう。


「書けましたわよ」


「はい、ありがとうございます。えーっと、アイナ=メシアさん……え? もしかしてあのメシア家の方ですか!?」


「メシアですわよ?」


 なぜ名前で驚く、あとあのとはどのメシア家なんだ。


「い、いえ。失礼いたしました。えー……あのー?」


「なんでございますか?」


「アピールポイントの筋肉というのは……」


「筋肉をご存じありませんか?」


 なんという無知なやつだ。


「いえ、どのあたりの筋肉がアピールポイントなのでひょう」


 そうか筋肉フェチであったか、失敬失敬。


「一番はやはり上腕二頭筋でしょうか、あとは大胸筋から腹直筋、それに僧帽筋に広背筋、やはり大腿四頭筋なんかも――」


「ストップストーップ! すみません、もう結構です」


 なんだまだアピールしたい筋肉があるというのに。

 だが筋肉フェチというのは良い受付嬢だな、感心した。


「では冒険者登録いたしますね。まず冒険者として――」


 そこから長い説明がされた。


 ようわからんがとりあえず冒険者というのはランク制らしい。

 ギルドから出された条件を達成すると認められてランクがあがるそうだ。

 んでそのランクだがFからSまであるようで、最初はFかららしく、応じたダンジョンレベルにいけるらしい。


 なんという面倒なシステムだ、手っ取り早く一番難しいところに行かせれば良いものを。


「最初はここのレベル1ダンジョンに行くのがオススメですよ」

 

 地図を見せて紹介される。

 ふむ、街の端にある様だな。


「ではここに行って参りますわ」


「はい、お気をつけて。これがギルドカードになりますのでダンジョンゲート前の守衛に見せてくださいませ」


「わかりましたわ、ありがとう」


 ギルドカードという白い名刺の様なものをもらいギルドを後にする。

 よし、では参るとしよう、筋肉の躍る戦場へ。


⭐︎以下あとがきです。⭐︎

ついに次回から、筋肉がダンジョンに挑みます。

果たして鍛えあげた筋肉は異世界のダンジョンを前にしても通用するのか、ぜひご期待ください!


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