第7話 炸裂する筋肉
「アイナお嬢様、良いのですか? お館様の命令なので手加減はできません、できれば諦めて――」
「何をいってますの? 手加減なんて最初からいりませんわ、それにちゃんといつものように鎧と剣を取ってくださいな」
家にこんな道場があったとは、さてはコイツら隠していたな?
前に立つのはクリフト、奴が冒険者になるためにだした条件の対戦相手だ。
確かに見た目からしてゴツくて強そうだ。
筋肉もいい具合に発達している、特に腕の筋肉なんてかなり分厚く美しい。
しかし、いささか筋肉が上半身に偏っておるな。
「ですが、それでは流石に怪我をさせて……」
「つけたまえ」
「は、はい」
親父にも促され鎧と長い剣を持つ。
「お館様、お嬢様、怪我をさせてしまったらすみません」
「いいですわよ、ただし本気できてくださいな。手加減されて言い訳されるのは嫌ですので」
それを理由に冒険者を反対されたらたまらん、ぐうの音も出ない程に納得させてやる。
「お嬢様……では、いきますよ」
「はい!」
奴の刃が迫り来る。
だが遅いな、振る力はあれど踏み込みが足りん。
俺が真正面から受けるため「ふんぬ!」と力を入れた瞬間、それは起こった。
「なっ、これは一体……」
「おう、これだこれだ。これこそ素晴らしき筋肉だ」
今までどこに眠っていたのかと不安になっていた筋肉がいきなり露わになる。
すばらしい、分厚い俺の筋肉達だ。
目覚めた筋肉はヒラヒラのチンケな服を引き裂くほどに膨らみ、剣を左前腕の筋肉達が防いで離さない。
クラウスの奴は間抜けにも口をパカパカさせて震えている。
「こちらもいきますわ、よ!」
「え、待ってくだ――グショア!?」
俺の右拳が奴の腹部の鎧を砕き、そのまま
部屋の中央部から端の壁まで吹き飛んだ奴は、壁を破壊しそのまま地面に倒れた。
「なななな、何がどうなっているんだ?」
見ていた親父が口をあんぐり開けて震えていた。
残された剣を腕から抜き、筋肉を収縮させて止血する。
「アイナお嬢様、ひとまずこれを」
「あら、ありがとう」
駆け寄ってきたリリファが持ってきたバスタオルを体に下腹部に巻いて隠す。
だが何故2枚もあるのだ、1枚で十分だが。
「お嬢様、上もかくしてください」
「うえ? 鉢巻か?」
「胸です、胸」
バスタオルを頭に持っていこうとするが制止された。
なぜ大胸筋を隠さねばならんのかと思ったが、そうか俺は女だったと納得する。
それがどうしたとは思うが。
「しかし、お嬢様この姿は?」
「これがきっと本来の姿ですわ。どう? 綺麗な筋肉美でしょう」
「いえ普通に元の可愛らしいお嬢様がいいです。その姿は正直気持ち悪いですよ」
「なん、だと……」
このよさがわからんと申すかこのメイドは。
「で、お父様」
「は、はい!」
なんでコヤツがまだびびっておるのだ。
全く漢にあるまじき姿だぞ。
「冒険者になってもよろしいですわよ、ね?」
「あ、あぁ、好きにしたまえ……」
親父はそのまま頭を抱えて退場していく。
ふん、納得させてやったわ。
「クラウス様は……良かったです、生きてますね」
「そうですか。目が覚めたらもっと下半身も鍛えるようにお伝えくださいな」
いくら剣を振ろうが下半身の力なくして最大限の力はだせん。
もっと走り込み等もメニューにいれる様にするんだな。
しかしこの筋肉、本当に素晴らしい。
後で鏡で入念にチェックだな。
その後、俺は広間の鏡にて隅々までその美しい肉体美を堪能した。
♢
「なぜ、なぜ戻っているのだ……」
次の日、目覚めると元の華奢な筋肉に戻っており落胆した。
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