第6話 2年後の筋肉
筋トレ器具が届いてから俺のトレーニング効率が飛躍的に向上した。
15歳となった今体ももう全く問題なし、たまにくる医者と名乗る奴も驚いていた。
なぜ良くなったかわからないようだったので筋トレの効果を熱弁したが、何故か理解が得られずコイツはヤブ医者だと確信した。
しかし、解せんことが1つある。
それは――。
「なんで筋肉がつかないんだ!!」
上腕二頭筋を触りながら絶望の叫びを放つ。
そう、俺の肉体は歳相応に成長はしているが筋肉の発達が見られない。
力こぶ1つだせん軟弱な見た目のままだ。
「おかしい、これはおかしいぞ……」
テーブルの銀製コップを握り潰しながら考える。
確かに体力はついたはず。
ダンベルももう最大の重さでトレーニングができている、これで200キロとなるはずだが。
これを軽々持ててこれはもはや人間とはいえないのではないか。
「お、お嬢様……?」
「あら、どうかしまして?」
珍しくリリファとは違うメイドが入ってきたと思ったら立ち尽くし固まっている。
「その、コップが……」
「あらやだ、なんでもなくてよ」
上品に振る舞えと再三説教されているので取り繕う。
しかし、なんだコップがどうした、ただ潰れているだけではないか。
「それより何か用があってこちらに来たのではなくて?」
「は、はい。お館様からアイナお嬢様を連れてくるようにと」
あのちょび髭か、全く懸命に考えておるところ邪魔しよって。
「あらお父様が、一体何のようかしら」
「わかりませんが、部屋にくるようにとのことです」
「わかりましたわ、すぐに向かいます」
めんどくせぇ。
あんな貧弱な者と会話するならば己の筋肉と会話する方が数億倍有意義だ。
♢
「お父様、アイナでございます」
「おう、入りたまえ」
ちょび髭の部屋をノックし、返答があったので入る。
「どういった用件でございましょう、新しい筋トレ機材の件でしょうか?」
「いや……違うが。うん、お前が冒険者になりたいと言っていると聞いてな」
リリファめ、チクリおったな。
コイツには言うなと言っておいたのに、面倒になるに決まっているだろう。
「あら、聞いてらしたのですね。そうですわ、冒険者になりたいのです。賛成してくれますわよね?」
ブリブリに可愛く言ってみたがどうだ。
「ダメに決まってるじゃないか」
チッ、やはりダメか。
固いのは頭じゃなく筋肉にしてほしいものだ。
「なぜですか? 体調ももうすっかりよくなりましてよ」
「危ないからに決まってるだろ。怪我でもしたらどうするんだ」
「大丈夫ですわよ。筋肉も……見た目には出ていませんが、ほら」
近くにあった台から花瓶を手に取り握って潰してみせる。
口がパカンと開いた間抜けなちょび髭、こんなのは少し筋トレすればできるだろうに。
「私の大事な花瓶がががが……」
なるほど、そんなに良い花瓶だったか。
それならもっと強度を持たせるべきだ。
「冒険者になってもいいでしょ?」
「だ、ダメ……いや、条件を与えよう」
頭を抱えながら言ってくる、花瓶ならまた買えばよかろう。
しかし条件をクリアすればと譲歩してきたのだから、あれは無駄ではなかったということだろう。
「条件? でございますか」
「あぁ、クリフトに勝って見せよ。そうすれば認めてやる」
【クリフト】とはコイツの護衛のヤツだ。
確か一番強いと聞いたことがある。
よし、筋肉を試す良い機会だ。
「わかりましたわお父様。その条件、クリアしてみせましょう」
せいぜい楽しませてもらおうじゃないか。
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