第4話 筋肉は外に出たい

「どういうことだ、走ったり、なんかして……ハァハァ……」


 血相を変えて走ってきた親父。

 これぐらい走った程度で息が乱れるとは軟弱なヤツだ。


「風が気持ち良かったもので、つい」


「ついじゃ、ないだろう。また倒れたら、どうする」


「大丈夫ですわよ、筋肉がそう言ってますの」


「意味の、わからんことを言うでない……」


 筋肉と会話もできんヤツだとはメイドもコイツもまだまだだな。


 この中年はこの家の主、つまり俺の親父の【ロイド】だ。

 茶色の短めの整え固めた髪、髭も整えていかにも偉そうといった感じだ。

 運動もしたことないような細い体にスーツを決めている。

 前世では絶対に関わることの無いだろう人間だな。

 首をしめているその蝶ネクタイは苦しくは無いのだろうか。


「心配しなくてもよろしくてよ、お父様よりもう体力もあるようですので」


「なん、だと……」


「では、いきますわね」


 体が限界の様な軟弱な男は置いてゆこう。

 この高尚な時間は誰にも妨げられぬのだ。


「アイナアァァァァァッ!」


 後ろから叫び声が聞こえたが無視して俺は走り続けた、続けた結果――。


「どういうことですか? お嬢様」


「筋肉が欲していたのです、仕方ありませんわ」


 ランニングが終わり、汗をかいた不快な服を取っ払い茹で卵を食べている時にリリファが慌ただしく入ってきた。

 そうして、こう長々と筋肉の役にも立たない説教をされているというわけだ。


「意味がわかりません、無理はしないでと言ったでしょう。それにそんな格好ではしたない」


「無理はしていませんわよ?」


「走っているじゃないですか。おかげで私がお館様に怒られてしまいましたわ」


 なるほど、八つ当たりされたから俺に八つ当たりをしていると言うことか。

 全くしょうがないメイドだ。


「それは申し訳ございませんわね、もう気は済みましたかしら?」


「おおお……」


 なんだワナワナしよって、小便でも我慢しているのか?


「お嬢様ああぁぁぉ!」


 何故かはわからんが火山が噴火したようだ。

 そんなにイライラするなら筋トレすればいいものを。


「――ハァ、ハァ。わかっていただけましたか?」


「わかりましたわリリファ」


 どれだけ説教を受けたか、眠たくなってしまった。

 結局無理して走るなということらしい。

 無理はしていないので全くの見当違いだが、これ以上言っても埒があかんので大人しくしてやった。


「そうだ、リリファ」


「なんでしょうか?」


「街に行きたいのです」


 説教の間にふと思い出した。

 この部屋にはトレーニング機材がなさすぎるのだ。

 せめて簡単なダンベルでもあればまた効率はあがるんだがと思っていた。


「は? いきなり何を」


「良いではありませんか、体調も問題ないと筋肉も言っていますわ。気晴らしをしたいのです」


「ハァ……まあお館様に相談してみますが」


「頼みましたわね、ダメだったら走りますわよ」


「なんですかその脅しは……。では」


 リリファが頼みに行った。

 その間にまた筋トレをしよう。

 あんなのではまだまだ足りんからな。


 ♢


「いち……にー……さん……」


「お嬢様……ハァ……」


 クランチ途中にリリファが戻ってきた。

 呆れた顔をしているが交渉がダメだったか?


「街には行って良いとの事でしたわ」


「そうですか!」


 なんだ大丈夫だったではないか。


「ですが私も一緒にいき、無茶しないか監視させていただきますので」


 邪魔者も一緒か、だが仕方あるまい。

 今は街に行ける事でよしとしよう。


「わかりましたわ、よろしくお願いします」


「く•れ•ぐ•れ•も! 無茶はしないでくださいね」


「しませんわよ、心配症ね」


 そもそも無茶をしたことはないんだ、言われる筋合いはない。


 

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