第2話 この世界は筋肉に厳しい
「ななななな、何をしているんですか!」
「見ればわかるだろう、スクワットだ」
女はシックな黒と白のヒラヒラの服を着て頭には白いカチューシャをつけている。
筋肉の薄いすらっとした体型、緑の長髪で大きな翠の瞳、顔つきは整い清楚な雰囲気を出しそうだが今は目を見開き慌てた顔をしているのでそんな感じはしない。
これはメイドというやつか、完成度の高いコスプレだ。
「お体に触ります! どうかベッドで安静にしてらしてください」
「何をいう、鈍ってしまうではないか」
メイドの言うことを無視してスクワットの続きにはいる。
お尻を下げて……。
「なりません!」
「何をする!」
メイドが力づくで邪魔をしてくる。
くそ、この軟弱な体はこんな女人にも負けてしまうというのか。
抵抗虚しく俺の体はベッドに追いやられてしまった。
「一体どうしてしまったのですかあんな事して。また病気になってしまったらどうするんですか」
「病気だと?」
「アイナお嬢様は免疫が低く病気になりやすいんですから、このまえだって外で散歩して熱を出してしまったではないですか」
なるほど、よくわからんがこの肉体は病気になりやすいらしい。
「ならばやることは1つだな」
「お嬢様?」
「筋トレだ」
ベッドからでて床に肩より少し外側で手をつきうつ伏せとなる。
腕立て伏せだ。
そのまま腕を伸ばし、そして肘をゆっくり曲げて体を落とす。
完全に落とさないよう、床ギリギリで数秒キープし、また床を押して体を起こす。
やはり貧弱な体だ1回でも腕がプルプルと笑っておる。
今まで使われなかった上腕二頭筋が悲鳴を上げながら歓喜しているのがわかるぞ。
「お嬢様!!」
しかしまたメイドが邪魔をしに入った。
♢
「わかりましたね? では失礼いたしますのでどうか安静に」
ベッドに戻され長々と説教を受けた。
何を言われたかは覚えておらん、難しいことを言われてもさっぱりわからんがゆっくりしてろとのことだ。
つまりいきなり高強度でやるのではなく、ゆっくりと筋トレに励めということだな。
「ひとまず言いつけは守ってやろう」
俺は言われた通り、腕立て20回を3セット、クランチ10回を3セット、スクワット10回を3セットと軽く流した。
とは言えこの肉体はこれでもキツいようだ。
筋肉の悲鳴は喜ばしい事だが言い付けられている以上これ以上はやめなければなるまい。
それに過度な筋トレも免疫が下がるといわれているしな。
♢
「失礼致します。お嬢様、お食事をお持ちいたしました」
配膳カートを押し、先程のメイドが部屋に入ってくる。
食事の時間の様だ。
テーブルにクロスが敷かれてナイフとフォークなどが用意され、カートからいくつかの蓋のついた食器が置かれていく。
椅子に座ると蓋が開かれ内容が露わになった。
「何だこれは?」
「何と申しますと?」
出てきた食事はサラダにスープから始まり、パンに脂ののったステーキ肉や揚げ物、そしてフルーツの盛り合わせ。
――ふざけているのかと怒りが湧く。
「こんな脂身だらけの肉は食えん。脂身の少ない肉、もしくは魚にしろ。揚げ物なんてもっての外。あとパンではなく米だ、玄米ならなお良い。納豆もつけてくれ」
この脂質の多いメニューは筋トレを舐めているのか?
そもそも病弱な奴に食わせるものでもなかろう。
「米に……納豆ですか? それはどういった……」
米も納豆もないだと……いや、見た目からして西洋だなくても不思議ではない。
「ないなら良い。とりあえず肉は脂身の少ないのにしろ」
「はい、承知致しました」
全く、これからは食事も筋肉の事を考えて欲しいものだ。
俺はサラダに入ったブロッコリーを食べながら強く願う。
「食後のプロテインは?」
「プロテイン、とは?」
まさか、プロテインがない、だと……!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます